トラック3 ふれあい

じゃあ~、そこ。そこに寝て。ごろーんって。寝っ転がった方がリラックスできるでしょ。


もう! そのほうが落ち着くの! だって立ったり座ったりするのまだ慣れてないんだもん。丸まって寝てる時が一番落ち着く。


え? 人前で横になるのが恥ずかしい?


へえ~。君はネコだった私を平気でひっくり返したりお腹をナデたりしてたくせに、自分がされるのはそんなに怖いんだ~。ふーん。



そうそう、最初から素直になればいいんだよ。そこで大人しく横に……。


う、うん、そんなに姿勢よく寝られると、ちょっと怖いね。まるで……。


え? マグロを用意した? あっ、私がこの前言ったこと覚えててくれたんだ。どこ?


はあ、寝転がってなすがままのマグロ状態の僕がここにいる……。どうぞ好きにしてって? 



ふーん、そう……うふ。ねえ~君。猫は肉食系だって知ってる?


私は人間の姿になったけど~、4本の牙はと~っても鋭いのがまだあるの。この牙の役目はね~、う~ん? 獲物を逃がさないため? うーん、それもあるけどー。


私が首にガブっってするとね、この牙が相手の首の神経をぷちっと切断するの。そうやって確実に獲物を殺しちゃうんだ~。ね~、あなたにも試してみていい~? あなたのクビっておいしそう~。


っ! びくってなった!びくって!あはははは。目が真ん丸になってる!お魚みたい。よかったー。まだ生きてる新鮮なマグロで。



はいはい、どうどう。ごめんって! そんな牙ないからっ。私の小さなお口であなたの首はカプつけません。


ふう。これでリラックスできたでしょ? はぁ、私も今ので緊張ほぐれたよ。え? 何って言ったのって? ううん、なんでもない。


さ、もっと端っこ行って。なんでって、私も横に寝るんだから。当たり前じゃない。一緒に空を見ながら添い寝なんてロマンチックでしょ? え? 天井なんか見ても全然ロマンチックじゃない? なら今度私を星の見える場所に連れてってよ。塔の上とか~、ビルの屋上とか。え? 高いとこばっかりだって……? もう、いいでしょ好きなんだから。


はいはい、じゃあ私も横になるね。んしょ、んしょ、もうちょっと向こう! よいしょっと。うふふ。うん、君の天井はなかなかいい天井だねー。



まず目を閉じて、私の声に集中して。最初は深呼吸だね。大きく息を吸ってー、吐いてー。また吸ってー、吐いてー。はーい、よくできました。


……(緊張による深呼吸と少しの間)え? 大丈夫、ここにいるよ。では次にダンスの練習でーす。男の子はパートナーの女の子と手をつなぎます。男の子から迎えに行ってはいけません。女の子が近づいてくるのを、男の子は静かに待ちましょー。


ふう……じゃあ君は手を開いて……私が手の平を重ねるように、ゆっくり近づけていくから……。今、君と私の手は十センチくらいの距離にあります……そのあいだの……空気の流れを感じて……少しずつ……少しずつ近づけていくから……すー、はー……私の手のひらの熱が、あなたに伝わるかな……ドキドキっていう、鼓動を感じるかな……君に触れたいっていう私の気持ちが……手が震えてるのが分かる?……人間になったのに、私に気づいてくれた人はいなかった……誰にも見えないってこと、聞こえないってこと、すぐにわかった……誰かに気づいて欲しかったの……誰にも気づいてもらえなかったから……最初に思い出したのは君のことだった……なぜかは分からないけど、どこに行けば会えるのかはすぐわかった……最初、君は怖がってたよね? でも私はすごく嬉しかった……私の運命の人だって思った……だからきっと伝わる……君の手と、私の手……重なって……重なって…………すー、はー、すー、はー……。


うん……ぐすっ、うん……えっく、うん、うん!……いいよ、何にも言わないで……私は、私は君に触れたから! 手に触れ……て……ついでにあっちもこっちも触っちゃたんだから! どこって? どこでも好きなとこ想像すればいいでしょ! どうせ……。もういい! 今日はこのまま寝よ! そう、寝るの! 寝て……はあ。……あの、添い寝……してあげる……。え? それならもっと甘々な声で言ってほしい? そんなことしません! ハウス!ベッド!ねんね!……おやすみ!



……すーはー、すーはー、すーはー。ねえ、聞こえる? もう、寝ちゃった、よね?


君、やっぱり優しいね。私がムリしてるの、気づいてたでしょ? 知ってて合わせてくれてたんだよね?


でもムリしてるのは君も、だよね? こんなに手を傷だらけにして。お守りいっぱい集めたり、部屋に変な飾り付けしたり。


私の知らないところで、いったい何してるの?



そうだ、明日は君、休みよね? 私が誘ったらデート、とかしてくれるかな? 場所はどこでもいいよ~。ふふーん。二人で楽しいこと、できるならどこでも! ね、ね~?


なーんて、君が起きてたら絶対言えないんだろうなあ、ふふ。


ううん。私は君とお話ができるだけで十分。それ以上望んじゃうと、今の幸せがすぐ終わっちゃう気がするよ。


それじゃあ、今度こそお休み。

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