トラック2 宅急便の配達員に化けて出戻り作戦
あのう……お邪魔しまーす……。ああやっぱりダメ~! 逃げ出したい~。あの時怒って出て行ったりしなきゃよかった……。仲直りって私苦手なのよね~。
いや、でもちょっと待って。私は何も悪くないじゃない。そもそも彼が変なこと言うからだし。
そりゃあ、あの人の前でおしっこしたことはあったけど……あ、あれはネコだったからだし!
ああもうなんで、人間になった途端にそういうの恥ずかしいと思っちゃうのかな~。
でも大丈夫。今日の私は探偵ネコ。朝から彼の家の前で張り込みをしているのです! 前回はいきなり声かけて悪霊扱いされちゃいましたから。今回はちゃんと正規の手順で踏み込みます。その方法とは!
ドアベルを鳴らして一言、『白猫宅急便でーす』、これです! あのトラックのあのマーク、きっと猫の運び屋さんですよね? それなら、モノホンぴちぴちの元ネコである私も怪しまれずに侵入できるはず……。
あれ? そういえば私、ボタンも触れないんでした。どうやってドアベルを鳴らしたら……うにゃ?(ドア開く)
ふんにゃあー! さっきからドアの前で何してるの?って! 全部聞いてたんですかあ!
すみません、ちょっと勇気を充電してました。基本小心者なのでこまめな充電が必要です。えっと、本日はお日柄もよくー、ってスピーチじゃなくて! ええ、昔からドアから忍び込む猫は縁起がいいなんて申しますがー…………落語でもなくて!
どうぞあがってって? あ、ありがとう……ございます。自分の家だと思って、ですか!? ど、どどど、どうしよう! 彼がすごく優しいです! これは……めちゃくちゃ怒っているに違いありません!
はい? 言葉遣いが前と違う? あ、うん。ちょっと、緊張しちゃって、てへ。前回はちょっと慣れ慣れしすぎたかなあって。そんなことない? 君と僕は? ずっと日曜日にデートしてた仲だろ、って!?
ごろごろごろ。どうしよう、思わず喉が鳴っちゃいました。なんかいい感じに女心を手玉に取られてます。今すぐ彼の胸に飛び込んで『ごろにゃん』ってしたいです。
いけませんいけません。このまま流されてばかりだと彼にフシダラなネコ娘と思われてしまいます。あれ、そういえばこの部屋、前に来た時となんか違う。お香の匂い?
そういえば、鼻が平べったい感じから手で摘まんで閉じれるタイプになったんだよね。
ただなんかこれ、摘まんでしゃべると声も違う感じに変形するの。
アー、アー、猫猫子猫、猫猫化け猫、猫猫……、あ、いえ、風邪じゃないので。苦そうな薬を私の前にてんこもりにしないでください。
なんでここにきたの、って? いえ、あの、あなたにはネコ時代もとてもよくしていただいたので。
え? 公園で猫を可愛がる人なんてたくさんいるのに、なんで僕のところにって? うーん、それもそうですね。それは、そのう(深呼吸)……
君が、ね。私を見つめる優しい目が気になったっていうか……。撫でてくれる手があったかかったからっていうか……。その、なんだかムラムラして……私、我慢できないんです……イケない子だって思われるかもしれないけど……思い切って言っちゃいます。
ぶっちゃけ君がお腹いっぱい食べさせてくれそうだったからです!
むしゃむしゃ。ごめんなさい私が催促したみたいになっちゃって。なにこの魚。予想より百倍美味しい! このネコ柄のお皿も可愛いです。私のために用意してくれたんですね。この魚はホッケ? お酒のつまみにいいらしい、ですか? 君はお酒飲むの?
へえ、前は付き合いで飲んだけど? 最近は付き合いがめっきり減って人とお酒を飲む機会も減ったと。それはいいです。今後は私と家でお酒を酌み交わしましょう。
なに、私もネコ時代はいける口だと言われた女。時々、夜に一人で盆踊りしてるおじさんがいたけど、飲むと気持ちよくなる水をくれたんです。私が口をつけると「おっ! ねえちゃん、いける口だねえ」とほめてくれました。
え? ネコは飲んじゃだめ? そうなんですね。今度から気を付けます。バッチコイです! ぱちーん(額を叩く音)。
それにしても。前回来た時より部屋が神聖な感じになってますね。なんだか白い帯のようなものが部屋中にぶら下がっています。公園の近くにもこういう場所がありましたね。
そ、そういえば、君は前に来た時に神社や厄除けについて調べていましたね……。私のせいですっかりノロイローゼ(呪い)に~。これ、私のせいですよね。
こ、これは~私が犯人として裁かれる流れ~、なんとかしないと~、なんとかしないと~。そうだ。お代官様のもとに引っ立てられる前に示談でなんとかしましょう。
ごめんなさい! 姿の見えないネコ娘の責任の取り方を教えてください! ははあ!
え? まだあるよって……。 うわ! たくさんお守りがあります。
ふむふむ。家内安全、交通安全、無病息災、開運祈願、長寿祈願、縁結びに厄除け……。すみません……この前私が来たせいで、君をすっかりお守り依存症に……。
そうだ。これだけあるなら私にも一つ分けてもらえませんか? え? 縁結び? ここ、これは、もしかして~!?
はい? 猫と人間の縁を大切に……? はあーなるほど……。私、男と女がつがいになる方を想像してました。
そうじゃない? 君と私がこうして会えたことに感謝して? 誰に? 神、様? 思い出しました! あの白ネクタイに白スーツのインチキ野郎ですね!? 許せません、彼に責任をとらせましょう。焼いて、お箸でほぐして、酒のつまみにしてやるんです。
まあ落ちついて、って……あなたはどうしてそんな冷静なんですか! え? はい……はい。まあそうですね。彼に出会わなかったら、こうしてあなたと話すこともできませんでした。でも、でも! 今のままじゃ! 見えないままじゃ! ……あなたに触れてもらえないじゃないですか……撫でて、触って……いい子いい子って……してもらいたいです。
え? それなら今から触れ合ってみよう? でも、どうやって……。わかんないけど、きっとできる? いやムリだよ! ……私なんか、どうせ幽霊みたいなものです……きっともうすぐ消えちゃうんです……君に声が届かなくなって、ミルクも飲めなくなって! ……それで、それで。
え? そんなふうに考えちゃダメ? 今から触るから……ってどこを!? いや。まだ、そんなとこ……あん。じゃなくて! ムリだってば。なんでそんなグイグイくるにゃ? わかった! わかったから! 私! 私から触るから。見えない私のどこ触られるかわかんないから。ね?
私から、する、から。
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