姿の見えないネコな彼女~アナタに触れてほしい、この胸の2つだけの女子力

悠木音人

トラック1 押しかけネコな彼女

【本作品の楽しみ方】

 4コマ漫画だと思ってお読みください。

 1空行で1コマ、2行の空行で次の4コマになります。


 アニメや音声作品をよく鑑賞する方は頭の中で声優さんの声に変換すると楽しいです。起承転結とオチが連続するので、抑揚大き目なギャグっぽい演技が相性いいかもしれません。声より息遣いが大きく聞こえてきそうな接近やキスシーンもあります。


★★★


ねえ君。君は、助けを求めてる女の子の前で二度寝したり、寝坊して知らんぷりしちゃうような人? それとも、公園で出会った猫のことも『その猫は僕の友達です』って、胸を張って言える人かな? いいよ、ゆっくり考えて。ああでも! このお話が終わるまでに、答えは出ちゃってるかもね。あっ……そろそろみたい……。



おーい。起きる時間だぞー。おーい……。あーれー? もしかして、聞こえてないのかな? いや、でも今耳がピクってなったしい……。おーい。あっ、起きた。ねえ、外はいい天気なのにどうしてまだ寝てるの? お腹すいて動けない?


え? どこにいるの、って……。ここだよ、ここ。目の前で手を振ってるじゃん。はろー。……あれ? もしかして、私のこと見えてない?


ってどうしたの? 急に黄色の分厚い本なんか出してきて。お医者さん? 耳鼻科。

違う? 神社、厄除け、ポルターガイスト!?


ちょっとちょっと! 落ちついて! 私はちゃんとここにいるの。耳の病気でも悪霊でもないから!



え? 安心できない? ふむふむ……。誰かに? 見えない女の子の声が聞こえるなんて知られたら? 頭がおかしくなったと思われる? うーん。


たしかにー。休みの日はいっっっつも、公園を一人でぶらついているような人だもんね。あの人おかしいねって誰かに噂されてもおかしくないかも。別にいいじゃん。それで友達がいなくなっても。私が一緒にいてあげるし。


ちょっと、どうしたの? え? 妄想が妄想の存在を肯定してくるー! って? 妄想に共感されるようになったらもうおしまい?


だから違うんだって! 私とはいつも公園で会ってるじゃない。あそこに住んでるネコだよ! ネコだにゃあ(棒読み)。どおー? これで信じた?



そうなのだ。えっへん。私はもう公園でうろちょろしているただのネコではないのだ!

人の言葉を理解し、人の姿を手に入れた。それはもう人と呼んで差し支えない存在。


え? 姿が見えないのはどうしてかって? うむむ、それは私にもわからないのだ。分からないけど……、あっ、そだ。こんな時のために問い合わせ先を教えてもらっていたの。今から番号を言うから電話をかけてくれない?


ぴぽぱっと。そうそう。なーに? おかけになった番号は? 使われていないー!?


うう、ぐす、ぐじゅる。どうしたのって? それが、それがあ。自分は神様だと名乗る奴の詐欺に遭ったみたいなのだー。うじゅぐえー!




ぐす、ぐしゅ。え? 話を聞かせてみろって。うん、そうだった。お前のそういうところが好きなのだ。それは聞くも涙、語るも涙の物語なのだ。あれは昨日の夜。最近疲れ気味で寝てばかりの私のところに、白いネクタイと白いスーツを着たおっさんがやってきて、ネコの私に言ったの。


『君、なかなかの美人さんだね。その伸びやかな筋肉と輝く毛並み。きっとデビューしたら人気ものになれるよ。うちのプロダクションで是非人間デビューを』って。


え? いかにも怪しい? そっか、君ならすぐに怪しいと気づけたのか。まあでも私はわけあって……いや、興味もあったしつい誘いに乗ってしまったのだ。


うう、その結果が透明人間だなんてー! これじゃ幽霊扱いされても仕方ないのだー! うにゃあー!



ぐす、うん? どうしたの。冷蔵庫から何か取り出して。


まあミルクでも飲んで落ち着いてって。ありがとう。君はやさしいね。


ぴちゃぴちゃぴちゃ。うん、美味しい。


って! 私は人間なんだってば! 床に置いた皿でミルクを飲ませるとか、なんか屈辱なのだー!



ん? どうしたの難しい顔して。え? 皿ミルクは実験? なんの?


急に手を出してどうしたの? 君の手に私の手を乗せる? わかった。


んしょっと。……うわあ、あったかい。人間の手と手が合わさるとこんなにあったかいんだね。初めて知ったよ。……そっか、これが……。え、なに?


秘宝!? 隠された魚の骨とか!? え、違う……。悲しいお知らせのこと? うんうん、私には、『手』がない!? そ、そんな衝撃の事実、知らなかったよ!



ふむふむ。そうか、触れたはずの手が君には何も感じなかったと、そういうことね。ミルクを飲める舌はあるのに、相手に触ることは出来ないと……。


うむ、事件の真相が見えてきたよ、君。これは……この事件の真犯人は、味見は出来ても料理が出来ないシェフだ! ばばーん。


仕方ないなあ、じゃあこれからは君が料理を作って私が食べることにしようよ。おたがいに得意な分野を活かしていけば、どんな問題も解決だよ。


え? それだとずっと皿ミルクから卒業できない? そうだった! ううう、君が女の子をペット扱いするような奴だとは思わなかったよー。うえーん。



ぴちゃぴちゃぴちゃ。うん、もうヤケ酒でもしないとやってられないにゃ。まったく、あの白スーツのおっさんめ。何が神様だ! 私を身を心もしゃぶりつくしてくれちゃって! 今度会ったら私が全部飲み干してやるのにゃ! うん、おいしい。ぴちゃぴちゃぴちゃ。


どうしたの? そんなに熱い視線を私に向けて。 観察の続き? ミルクをバリウム代わりにして? 体の中を通るところを観察したい……。それで、おしっこになるまで追跡調査がしたい、と……。


そんなことしなくていいにゃ! だいたい私は服を着てるから首から下は見えないにゃ。それを。は、はあ!? トイレについて行っていいかって? な、なんでそんなにグイグイくるにゃ。見えないから倫理的に問題ないだろって?


問題おおありにゃ! だいたいそんなことしたら見えない部分の形までハッキリと……。って何を言わせるにゃ。もうこんなところ出てく! さよなら。私のことを臭いで探さないで。それから、首を洗って待ってるついでにマグロとチュルルを買い置きしておいてもかまわないからね。それじゃ。

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