第7話 呪児

「ここからです。そんな呪児に見られる一つの希望の光。神様の慈悲なのか、皮肉なのかは分かりませんが、呪児には何かしら突き抜けた力が宿ります。わたしの場合、第六感のような物が周りの人よりも突き抜けているようです。なので、意識を集中させればその人の呼吸音や足音で誰か特定することも可能なんです。だから、ノアス君を見つけるのはそれに頼ってました」




 ノアスはしばらく考えるがいまいち腑に落ちなかった。要するにエルフが持つエレメンタルと同じで口では説明出来ない力をエリィが持っているという事だろうか。






「しかしいくら何でも目が見えない状態でよくも独りでダンジョンに潜ったな。一年しか生きられないのに。両親は何も言わなかったのか」




「うん。何も言われなかったよ。わたしは自分の意志で決めたの。このダンジョンに眠る全ての欠片を集めるって」






 ダンジョンに潜る者が己の寿命を捧げ、一年しか生きられないという一見デメリットしかないダンジョン探索。それだけじゃなくダンジョン内にはあらゆる危険が存在する。現にモグラの平均寿命は四か月とも言われており、そんなダンジョンに何故潜る者たちが続々といるのか。理由は簡単だ。己の願いを叶える為。




 無数に続くダンジョン。そのダンジョンには二種類の階層主がいる。一定階層を束ねる階層主と、一定の階層に留まらない欠片階層主。




 階層主はどの魔物よりも強く、圧倒的戦闘力を兼ね備えている。




 一方欠片階層主は、心臓部に〝欠片〟と呼ばれる石が埋め込められており、他の魔物とは相見えない第三勢力といった存在。




 その欠片には不思議な力が宿っており、欠片ごとに効力は違うが効力内なら何でも一つ、願いが叶うと言われている。そして全ての欠片を集める事で何でも一つ願いが叶えられるらしい。






「欠片……か」






 ノアスはその言葉を聞いてラリムとイースの言葉が頭によぎった。




――近々欠片階層主を討伐しようと思う。欠片階層主は十五階層を軸に統括しているらしい。まだ誰も到達していないからこそ、今のうちに俺たちで攻略してしまおう。




――私が調べた限りだと十五階層の階層主が持つ欠片は『治癒の欠片』。どんな病も一度だけ治す事が出来るらしいわ。




 あの悲劇が起きる数日前の事だ。未攻略の階層を調べるということはかなり難しく、一体どんな情報網を使ったか判らないが、ラリムは欠片階層主について作戦を綿密に立てた。けれど想像を遥かに超える欠片階層主の強さにノアスは絶望し、敗北を喫したのだ。




「そう。全部集めてわたしにかかった呪いを消し飛ばすの。それから――やっぱり何でもない。ノアス君は何でダンジョンに潜ったの? やっぱり何か願いを叶えるため?」


 


 エリィの言葉でノアスは昔を思い出す。


 











 ノアスの見る世界は闇一色だった。どちらが前なのか、どちらが後ろなのかも解らずノアスは孤独と共に歩んで来た。




 自我が芽生えた時には既に独りで、両親というモノを知らずにノアスは育った。




 孤独なノアスが取った行動は同い年の子供を観察する事だった。ただひたすら、陰の住人として太陽の下で輝く笑顔を照らして元気にはしゃぐ子供たちを観察していた。




 幼いノアスはそんな真逆の世界で生きる子供たちが羨ましくて仕方が無かった。何度も声をかけたが、そのたび尖った耳を凝視され、触られ、言われた。『亜人』『人間じゃない』『気持ち悪い』『近寄るな』子供やその親から飛ばされた罵声は幼いノアスの心をズタボロに傷つけたのだ。




 生きる希望も無く、空腹による限界で路頭に彷徨ったノアスは思ったのだ。




 ――命を絶とう。




 そして自殺を図った。あと一歩。あと一歩でそれは達成できたのだが、そこでノアスを止めたのが、ラリムとイースであった。彼らはノアスを優しく包んでこう言った。




 ――もしその命が惜しくないなら俺たちと共に歩まないか。少年。


 初めて感じた優しさと温もり。彼らの言葉が何もなかったノアスの生きる希望となった

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