過去の記憶と俺様と…

ドクン…。


10年前ー


「えーん、えーん」


「君、何で泣いてるの?」


「ママが、出てった。僕とパパを捨てたんだよ」


「紗那だって、今日でパパとさよならするんだから。男の子なら、泣かないの」


「痛いよ」


「名前は?」


「樹理、そっちは?」


「樹理は、泣き虫だね。私は、紗那」 


「頭、ペチペチ叩かないでよ。」


「紗那の目見て」


「なんだよ」


「ちゃんと見て」


「見てるよ」


「ほら、もう悲しくないでしょ?君が笑ってるのが映ってる」


「ほんとだー」

.

.

.


「思い出した?」


コクン


「よかった」


暁君の笑顔を見て、私も笑った。


「ほら、俺の目に笑ってるの映ってるだろ?」


コクン


「紗那、もう俺だけにしとけよ」


馬鹿じゃないの


私は、暁君を押した。


「友達なんかいらねーだろ?」


私は、首を横に振った


「俺だけいれば、いいだろ?」


そんなの嫌。


私は、暁君の手を振り払った。


足をひきずって、黒板に書いた。


【好きな人だって、作りたい。王様のゆう通りで、誰でもゆう事聞くって思わないでよ。暁君の事、思い出したけど好きじゃない。】


「紗那…」


悲しそうな顔をした暁君を無視して、足をひきずりながら家に帰った。


「足大丈夫?」


コクン


美鈴さんは、優しかった。


「ねぇー、覚えてる?紗那ちゃん、昔、迷子になったよね。誰だっけ、ほら綺麗な男の子が家まで連れてきたの覚えてる?」


私は、首を横にふった。


「だよねー。5歳だったし」


その言葉に、胸の奥がザワザワしてチクリと痛む。


足の痛みで、昨日は早く眠れた。


朝から、憂鬱な気持ちで学校に行く。


おはようって、声をかけてくれる人は、誰もいなかった。


「樹理、今日クレープ食べたい」


「いいよ、帰り寄るか」


「デートだよね?」


「そうだな」


隣の席の暁君と南さんが話していた。


私は、体操服を渡すタイミングを見失った。


授業が始まって、終わる。


わずか一日で、私を取り巻く世界は変わった。


まるで、私なんか存在していないように誰にも話しかけられずに、一日が終わる。


みんなの世界に私が存在していない。


それよりも、暁君の世界にいれない事の方が悲しいのは何故?


全授業が終わり、下校時刻には雨が降り出していた。


結局、体操服は返せなかった。


ザァー、ザァー


「雨だ」


「傘あった?」


「一つしかないけど、いい?」


「いいよ」


教室を出る暁君と南さんが見える。


ズキンズキンと胸が痛む。


これは、何?


苦しくて、心臓病にでもなったみたい。


また涙が、流れてくる。


まだ、ちゃんと悲しみの向こう側にいけていないのがわかる。


「紗那」


何で?暁君が、戻ってきた。


「俺、やっぱり紗那じゃなきゃ嫌だ。好きなんだ。昨日帰ってから考えて気づいたんだ。」


そう言って、暁君に抱き締められた。


私は、暁君を押した。


「嫌いなんだね、ごめん。忘れて」


わからない。


この痛みが、何なのかわからない。


どうして、涙が流れてくるのかわからない。


私は、胸を押さえた。


「ごめん。」


遠くで、樹理って南さんが呼んでる声が聞こえてる。


「もう二度と近づかないからごめん。」


待って、行かないで。


声を出さないと、暁君が、いなくなってしまう。


「く、く、く、く」


暁君が、とまった。


「紗那、喋れたじゃん」


「ここが、苦しい」


「それって、俺を好きなんじゃないの?」


抱き締められた温もりに、涙が流れる。


「紗那」


「樹理」


名前を呼び合うだけで、こんなにも胸の奥がジンジンするのを知った。


『好き』


そう言って、笑った私のの中に笑ってる君が映った。


「もう、俺だけにしとけ。」


「俺様のゆう通り」


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