ただ、君の傍にいたい

出会い

「姫香、早くしなきゃ。」


「うん、わかってる。王志おうし。これでいいかな?」


「いいんじゃない。バッチリ、結婚式遅れるから」


「わかってるよ。」


私と彼は、恋人同士ではない。


何故、一緒に住んでいるかと言うと…。




15年前ー


私、椎名姫香しいなひめかは、母親と二人暮らしだった。


中学三年生の7月7日。


母親は、この世界の住人をやめた。


つまり、死んだのだ。


考え方が、昔から不思議な持ち主の私には、死という概念はなかった。


ここで暮らした生物は、別の場所に魂と共に移り住み。


新たな肉体を得て、生きている。


そう考えている、特殊な人間だった。


その為、私には一人しか友人がいなかった。


彼女の名前は、水森亜美みずもりあみ。4歳の時から、ずっと一緒にいる。私の初恋だ。


いや、今も私は、あーちゃんが好きなのだ。


好きなんかじゃ足りない程に、愛してるのだ。


私は、そんな気持ちを病に侵されて、死にゆく母親に告げた。


「お母さん、私ね。あーちゃんが好き。彼女以外いらないの」


「姫ちゃん、男の子でも女の子でも、人を好きになる事は素晴らしいものよ。恋はね、とても素敵なものだから…。」


一週間後、母親は死んだ。


娘が、死にゆく母にいう台詞ではない。


しかしながら私は、母に嘘をつきたくなかったのだ。


この世界からいなくなり、言葉を交わせなくなる前に告げておきたかったのだ。


そして、母の葬儀の後、祖父母に引き取られた。


「あれは、女が好きらしい」


「父親の遺伝か」


「卒業したら、寮つきの仕事場か高校探さないとな」


「あれは、悪影響だ」


母親の妹夫婦と祖父母は、私をあれと呼んでいた。


そして、私の父親は、男の人が好きだった。


なのに、なぜか、母と結婚し私が産まれた。


「パパを恨まないで、いつかわかる。いつか、姫ちゃんにもわかるから」  


生前、母は、私にその言葉を繰り返していた。


三年前、母親とTVを見ていた時に、父の事故死のニュースが入ってきたのを今でも忘れない。


「よかったね。亮ちゃんと一緒になれてたのね」


母は、死亡した二人の名前を見つめながら泣いていた。


死んだニュースによかったと言う母の顔が、今でも脳裏に焼き付いて離れない。


「だから、おばさん。ガキを走らせてんなよ。それから、ずっとこいつが並んでたから順番抜かすなよ」


「ボッーとして、進まなかったじゃない」


「それでも、声かけろよ。アイス、溶けるぞ」


「あっ、すみません」


これが、私と香月王志かづきおうしの出会いだった。


アイスクリームを買って、コンビニを出た。


「うわー。ドロドロな。ほれ」


「いいの?」


「いいよ。いいよ。カップアイスは、飲み物な。」


そう言って、彼は笑った。


「同じ、学校だな。制服」


「本当だね」


「何年?」


「三年」


「えー、俺も三年。何組?」


「三組。」


「あー、それで知らないんだな。俺は、二組」


「そっか、じゃあ」


「ちょちょ待て、待て」


腕を掴まれた。


「何?」


「名前聞いてないし」


「あー。椎名姫香しいなひめか


「へー。姫ちゃんか。俺は、香月王志かづきおうし。よろしくな。」


「その呼び方やめて」


「何で、可愛い名前でピッタリじゃん。姫ちゃんに」


「女みたいで、嫌」


「女じゃん」


「はあ?」


「いや、怖いし」


睨み付けてやった。


女みたいな見た目が、嫌とかではない。


あーちゃんが、好きなのが男だから男になりたいと思ってしまうのだ。


好きな人が、好きだと思うものになりたい。


若い時は、みんなそうなのだ。


「なー。しーちゃんって呼んでいい?」


「まだ、いたの?」


「いたよ。ねっ?しーちゃんって呼んでいい?」


「勝手にしろ」


「俺は、王ちゃんでいいからさ」


彼は、私の後ろをついてくる。


「なに?まだ、何かよう?」


「しーちゃんの好きな人って、女の子だろ?」


その言葉に私は、立ち止まった。


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