嫌がらせとカラー君

「はい、終わり」


「あ、ありがとう」


私は、お礼をした。


「三組だな?体操服だから」


「うん」


「俺は、美笠蓮みかされん。君は?」


浅倉三千絵あさくらみちえです。」


「よろしくな」


そう言って、手を差し出された。


握れなかった私の手を引っ張って握手をされた。


こんな綺麗な人を見たのは、初めてだった。


「あ、ありがとう。それじゃあ」


「じゃあね」


私は、保健室を出た。


心臓が、踊るってあるんだ。


私は、胸を押さえていた。


こんな人生は、いつ終わったっていいって思ってたのに…。


初めて、生きる理由を見つけた気がした。


運動場に戻るとみんなは片付けをしていた。


「浅倉さん、大丈夫?」


「はい」


先生に、声をかけられてお辞儀した。


「浅倉さん、大丈夫だった?」


「うん、ごめんね」


「ううん、着替えにもどろう」


「うん」


私は、百瀬さんと更衣室に戻る。


体操服から、制服に着替えた。


さっきの、美笠君を思い出しただけでドキドキした。


「それ、自分でやったの?」


ネクタイが、ギザギザに切られていた。


「ううん」


「それないと先生に怒られるよ」


「そうだよね」


「卒業生が置いてるのあるか聞いてきたら?」


「わかった」


私は、百瀬さんと別れた。


両親が買ってくれたものなのに…


私は、ネクタイをポケットにしまった。


夏は、リボン。


それ以外の季節は、ネクタイだった。


失くす人もいるので、学校で売られている。


ただ、ネクタイは千円を越える。


高すぎる


「すみません」


「はい」


「卒業生が寄付したネクタイは、ありますか?」


「あー。ありますよ」


私は、ネクタイをもらえた。


卒業生が、寄付してくれていて助かった。


「もう、これ以上、中学のものは買わないからな」


叔父さんに、そう念を押されていた。


なぜ、ネクタイが…。


さっき、美笠君と話したせいなのではないだろうか?


それなら、近づくのは危険だ。


そう思ったのに、彼は私に興味を持った。


「浅倉さん、足、大丈夫?」


教室に戻ろうとした私に、美笠君が声をかけてきた。


「大丈夫です。」


「なら、よかった。」


私には、彼だけが色づいていた。


白黒の住人の私は、カラーを求めていた。


「では」


「またね」


みんなが、見えたから彼も気を遣ってくれた。


ネクタイの事以外は、何も起こらずにすんだ。


「じゃあね、また明日」


「うん、バイバイ」


私は、百瀬さんに手を振った。


よかった、よかった。


下駄箱を開けた。


昭和かな?


いじめって、ずっとかわらないね。


指定の運動靴がなかった。


いくらだっけ?


三千円は、越えたよね。


探さなきゃ


探さなきゃ


私は、ゴミをまとめて置いている場所に向かった。


ない、ない、ない…


袋を開けて、探して閉めるを繰り返した。


「いたっ」


割れたビーカーや試験管をいれてる袋に手を突っ込んでしまった。


ポタポタ血が流れる。


まさかの、小指から掌の内側まで切れてしまった。


最悪


ブレザーのポケットからハンカチをだした。


保健室か…。


でも、運動靴。


「浅倉さん」


保健室に行こうと歩きだした私の目の前にカラーの美笠君が現れた。


「えっ?」


「わぁー。大変じゃん」


美笠君は、自分のハンカチも出してきた。


「保健室行くから、どいて」


私は、わざと冷たく言った。


「待って、俺もついてくよ」


なぜか、美笠君まで保健室についてきた。


「あら、大変だわ」


保険の先生は、私の傷を見てそう言った。


先生は、手当てしてくれた。


「血が止まらなかったり、痛みがおさまらなかったら、病院に行きなさいよ」


「わかりました。」


私は、保健室を出た。


「浅倉さん、何探してんの?」


「靴です」


「もしかして、なくなったの?」


「はい」


「俺のせいだよな。探すよ」


「別にいいです」


「ダメだよ」


美笠君が、悪くないのに私は…。


「関わらないでよ」


って、叫んでしまった。


「浅倉さん」


「私は、君とは違う。1ヶ月もらえるのは、三千円なの。もう、中学のものは買わないって言われてるの。靴なんか買えるお金ないの」


「浅倉さんが、自分で買うの?」


「そうだよ。君には、理解できないだろうけど…。叔父の家に住んでるから仕方ないの。なのに、これだって」


切られたネクタイを見せた。


「卒業生が寄付したのがなかったら自腹だった。もう、近づかないで」


私は、カラーの君に酷いことを言った。


また、ゴミ置場に戻ってきた。


さっきと同じことを繰り返した。


なかった。


絶望だった。


近くのトイレに行くと、靴が見つかった。


マジックで大量に落書きをされていた。


(シネ、消えろ、目障り)


「クダラナイ」


私は、呟いて下駄箱に戻った。


上履きを置いた。


落書きだらけの運動靴をはいた。


落とすためにも、材料がいる。


もったいない。


お小遣いは、一円でも貯めていたかった。


たいした事じゃないのに、胸が痛いのは両親が買ってくれたものだからだ。


家に帰り、靴をばれないように部屋にもってはいった。


布団に寝転がった。


叔父一家のご飯が終わった頃に、ノックをされる。


それまで、ご飯を食べれない私はこの三畳の物置きでじっと待っておくのだ。


コンコンー


いつの間にか寝ていた私は、ノックの合図で起き上がった。


下に降りていくと、いつものように残飯がおいてあった。


何の味もしないものを口にいれた。


モノクロで、よかった。


カラーなら、食べるのも躊躇っていたかも知れない。


それを口にいれ、シャワーに入り眠る。


湯船は、贅沢だから入ってはいけないと言われた。


シャワーも、使用禁止。


全員が入った後の湯船の水だけが使用でき。


石鹸のみだ。


そんな人生は、可哀想だという人がいるだろう…


可哀想と言う言葉で、私のいる世界は変わることはないのだ。


三千円のお小遣いで、月四回銭湯に行く


それだけが、私の生きている人生の楽しみなのだ。


お風呂から上がり、宿題をすませ眠る。


朝は、鳥の鳴き声で目覚める。


朝御飯は、ブドウ糖のあめ玉のみの生活。


朝早く、学校にきた。

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