世界が死んだ

私は、いつものように空を眺めて


私の世界のカラーを探す。


のは、やめる。


彼に、関わるとこんな靴をはかないといけない事になった。


私は、下駄箱を開けて躊躇いなく上履きを履き、悶え苦しんだ。


「画ビョウ、よくこんなに見つけたな。暇人だね」


私は、上履きの中の画ビョウを外す。


とれない。


ゴミに捨てると履き物はない。


まぁ、いっか。


靴下で


下駄箱に上履きをしまった。


持ち歩かないと行方不明になる靴は、ビニール袋にしまった。


「浅倉さん、スリッパはきなさい」


「えっ?」


保健室の真壁先生が、私に声をかけてきた。


「そんな袋まで、下げていじめられてるの?」


「はい、突然昨日から」


躊躇いもなく話す私に、先生はスリッパをくれる。


「上履きもかしてごらん」


先生に言われて、下駄箱に取りに行った。


「ちょっと、保健室で話さない?」


「はい」


私は、保健室についていく。


先生の素敵なお化粧の色を知れたら、褒めてあげれるのに…。


保健室に入ると先生は、上履きの中と運動靴を見つめて固まった。


「重症ですよね?でも、三千円の中で、これを落とすものを買うと」


「銭湯にいけなくなるわね」


「知ってるんですか?」


「ひだまり銭湯でしょ?私も日曜日に行ってるのよ。これは、私が何とかするわ。で、叔父さん一家に引き取られたって話しは聞いてるけれど…。ちゃんとした生活は、おくれてないわよね?」


自分の事をこんなに見てくれていた人がいた事に驚いた。


「なぜ?それを?」


「あんな時間にひだまり銭湯にいると言うことは、放任されてる証拠でしょ?どうにか出来る方法を探すけど」


「やめてください。」


「どうして?」


「先生は、ここでただ話すだけに過ぎません。どうにかされた後に、叔父一家と住むのは私なのです。残飯処理と汚い湯船の残り湯と三千円以外のお金は巻き上げられている生活。先生が、どうにかした後で、それさえもなくなってしまえば私は、生きるのをとめるしかありません。」


涙も流さずに、こんな話をする私を先生はどう思ったかわからなかった。


「わかったわ。そう言うなら、私に出来る事はないって事ね」


「あります。」


「何かしら?」


「卒業して、すぐに住み込みで働ける。もしくは、寮のある高校を探してもらえないでしょうか?」


先生は、微笑んで頷いた。


「じゃあ、これは放課後までになんとかしとくから」


「あの、先生」


「なに?」


「心の病気なのは、わかっています。先生、私の世界は、白と黒しかないんです。」


「それは、目の病気かしら?」


「私も、そう思っていました。でも、ある人に出会い。その人は、カラーなんです。なので、これは心が関係してると思っています。」


「いつから、そうなの?」


「両親を亡くしてからです。」


先生は、少し考えていた。


「ご両親を失い大きなストレスがかかったのだと思うわ。もしかすると、浅倉さんの世界にカラーを取り戻してくれるのは、その人かも知れないわね。でも、あまりにも治らないのなら、私が病院に連れていくから…。まだ、医療費はかからないでしょ?」


「そうですね。でも、色がついた人もいるので大丈夫ですよ。先生」


「そうね。浅倉さん、その色がついた人を大事にしなさいよ。」


先生は、そう言って笑ってくれた。


「失礼しました。」


私は、お辞儀をして保健室をでた。


クダラナイ子供じみた争いに巻き込まれたくなかった。


美笠君を好きな誰かの嫌がらせなのは、わかっていた。


教室にはいる。


誰も見えない場所に、何かをしかける犯人。


ならば、机の中ではないか?


私は、机を倒した。


ガラスは、ないようだった。


ヌチャヌチャした何かが床に張り付いた。


うえー。


片栗粉か?


嫌、匂いがない。


うーん。


びしょ濡れの教科書をとりあげる。


私は、机を起こした。


「浅倉さん」


カラーは、また私の前に平然と現れた。


「これって、あれだよ。ローションかな?ベタベタするし」


そう言って、カラーは私の教科書をハンカチで拭いてくれてる。


「何で、話しかけんの?自分のせいでこうなってるって思わないの?」


「思うよ。すごく…。でも、話さずにはいられないんだ。浅倉さんの世界の中にいたいんだ。」


「それは、どういう意味?」


「俺にもわからないよ」


白黒の世界の住人の私は、昔の人がカラーテレビを求めたように、カラー写真を求めたように…。


私もまた目の前にいるカラーを求めた。


「トイレットペーパーとってくる」


いったん、教室をでて大量のトイレットペーパーと共に美笠君は帰ってきた。


「はい」


「ありがとう」


私も、教科書を拭く。


「新しいものを買うのは、違うだろ?」


「うん」


「これは、浅倉さんが両親に買ってもらったものだもんね。」


「うん」


「だったら、綺麗にしなくちゃね」


「ありがとう」


「ううん」


美笠君は、優しかった。


これをきっかけに私は、彼とよく話すようになった。


保健室でだけど…。


真壁先生は、私の靴を綺麗にしてくれて上履きもなおしてくれた。


そして、私に毎朝おにぎりを渡してくれるようになった。


嫌がらせはなくなる事は、なかったけれど…。


放課後の保健室で、美笠君と話すのが唯一の楽しみだった。


犯人は、いまだに現れずに…。


季節だけが、過ぎていったのだ。


そして、あっという間に日々は過ぎ去り、ここで過ごすのも今日が最後になった。


いつものように、放課後の保健室で美笠君と話す。


「浅倉は、卒業したら仲居さんになるんだって」


「真壁先生が、素敵な旅館の仕事を見つけてくれたの。私、お風呂は好きだから」


「それは、よかったな。俺は、高校に行くけど…。また、会おうな」


「うん、わかった」


「約束しよう」


「うん」


私と美笠君は、指切りをした。


家に帰り、いつものように過ごした後で、私は美笠蓮みかされんへのラブレターを書いた。


何度も、何度も、書き直し。


納得のいく手紙がかけた時には、

外から鳥の鳴き声が聞こえてきていた。


私は、いつものように学校にやってきた。


空を見上げるフリして、カラーを探した。


「はぁ、はぁ」


息を切らしながら、走ってきた真壁先生が私を見た。


「浅倉さん」


「おはようございます。」


「美笠君が、今朝飛び降りたって」


「えっ?」


私の世界は、死んだ。

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