第3話:灰色の脳細胞
「ここの発音は、名古屋弁の『おみゃー』とかの『ぇあー』って感じが近いですね」
3時間目、紅葉のクラスの担任の先生の授業を聞きながら、紅葉の事を考える。
もちろん授業に身を入れて聞かないといけないのは分かっているけど、差し当たって紅葉が無事である事だけは証明しておかないといけない。
友人の安否よりも大事な授業なんてものは、この世に無いだろう。
そのために退けておきたいのは、誘拐や殺人、交通事故、急な大病なんかの可能性。
とは言えこれは、比較的簡単に排除できる。
まず、誘拐や殺人。
途中から私と合流する紅葉の通学路は、朝は出勤や通学で常に誰かしらの人の目がある。何なら、合流するまでは裏道を通る、私の方が危ないくらいだ。
登校していたのなら制服を着ていたはずだし、何か有ったのなら学校に連絡が有るだろう。
交通事故も同じ。
目撃者も居ないし、学校にも連絡は無い。パトカーや救急車のサイレンも聞こえないしね。
急な大病の可能性だけど、これも無い様に思う。
実はうちのお母さんと紅葉のお母さんはお休みを合わせて取って、今朝から下呂温泉の方に出かけて行った。前から予定を入れていたとしても、娘がそんな大変な時にのんきに旅行に行く様な親では無い事は、私もようく知っている。
紅葉も、
『病気だ』って言うと私に『学校を休め』って言われると思って言わなかった可能性も無くは無いけど、これは全然考えなくて良いレベル。そんなやり取りはこれまでに何回もしてきて、最終的には毎回私が根負けして来ているから。私も大概、紅葉には甘くなってしまう。
……よし、取り敢えず紅葉の身に何か有ったわけでは無いことはハッキリしたね。
気が気では無くて何回も同じ考えをなぞったけれど、結論は変わらずにホッと一息。
今悔やんでも後の祭りだけれど、今朝に限って合流しなかった時点で家を訪ねてみれば良かったという事。
もっとも、毎朝合流して登校するのも示し合わせているわけじゃなくてたまたま毎朝会うだけだし、あの時点では『今日は時間がズレたのかな』くらいにしか思えなかったけど。
やっぱり、違和感は逐一拾っていった方が良いのかな……。
キーンコーンカーンコーン――。
「では、これで授業を終わります。ずっと幼馴染の青山さんの事を考えてくれていた美沙ちゃんには、誰か内容を教えてあげてね」
――教室中に笑いが起きて、私はハッと我に返った。
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