第2話 目的地策定! 島根県の夏祭りへ

 ということで、早速俺は島根県の歴史、あるいは観光地を探すために傷心の中図書館へと赴いた。


 ……なぜ傷心しているかというと、この日、俺は運転免許更新のために車で一時間以上掛けて更新センターへと向かっていたためである。海の近くにあるそこは、俺の趣味である釣りを楽しむためにもちょうどよい立地にあった。冬が開けた後も、なんやかんやと釣りができなかった俺はとても楽しみにその日を待ち遠しく思っていたのだ。


 だが待っていたのは土曜日はやってません!残念!という張り紙と、強く吹く風につられ叩きつけるようにして降ってきた雨であった。俺は泣いた。海ももう少し凪いでいてくれと願った。


 結局得た成果は、せっかくだから、という理由で竿をセットして餌に付けたエビの生臭さだけであった。


 そういうわけで、このまま無為な土曜日を過ごすわけにはいかない、と真っ白に燃え尽きた体を引きずり図書館へと向かった訳である。


 もちろん、目的は我が行き先である島根県についての資料である。図書館の地域コーナーへと向かい、関西住みなので大量にある関西圏の本を無視して中国地方を漁る。


 あったのは観光情報誌である、るるぶだった。違う。俺は観光をしに行くのではない。思索にふけ、かの文豪達のような生活の疑似体験を通して閃きを得るためである。


 そうして探していると、島根県謎解き散歩、という本を見つけた。俺はブラタモリ島根編を手に、二階の読書テラスへと向かう。


 まず、ブラタモリはなんか難しかった。いや、難しくはないが、俺の求めている情報ではないのだ。松江城について……確かに興味深くはある。あるが、俺が求めているのはそういったものではない。


 望むのは星のような生活の灯の瞬き。風に乗って運ばれる人々の営みの匂い。紅く染まる空の下から聞こえる子供たちの声。つまりはそういった、望郷を求めている。例え周りが騒音と排気ガスで満たされ、見上げても高層ビルかぼやけたような大気しか見えないような都会で育ったとしても、誰もが懐かしさを感じるはずの、あの夕暮れ時のようなノスタルジーを感じたいと思っている。


 


 詰まるところ……メジャーな観光地には、あまり行きたくない、というのが本音である。とはいえ、目的地となるのはそういった観光地として記される場所以外にない。これがこの旅の難しいところである。故に、俺は全く目的地でもなんでもない駅で降り、訪れ、そしてもう二度と来ることのないであろう街を見ようとしている。住宅街でも良いだろう。無人駅で降り、誰が使うんだと思いながら取り残された、いや、まさに昔ながらの自然を望むのもいいだろう。とにかく、俺は運命を求めている。へぇ! この驚きを求めているのである。


 閑話休題。


 少々話が逸れたが、とにかく語りたかったことは、一体どこに目的地を定めるのか、というところである。ブラタモリは残念ながら参考にはならなかった。島根県謎解き散歩の出番だ。


 開いて最初のページに写ったのは、写真付きで掲載されていたお祭りであった。


 俺が思う祭りといえば、地元で行われる花火大会である。屋台もそこそこに多く出て、広場でしか行われないようなちゃちな祭りではなく、駅周辺に客でごった返しているような、そんな花火大会だった。だが、ここに掲載されていたものは違う。これはまさしく、皆経験したことがないにも関わらず、お祭りを想像したときに出てくる、神社で行われ、神事として神楽を舞うようなものであった。季節は夏である。お祭りである。これは参加せねばなるまい。神楽を見たことがない、ならば見なければならぬ。


 というわけで、俺はそこを目的地の一つとした。宍道湖にも寄ろう。島に行きたいから、隠岐の離島にも行けるなら行きたい。


 目的地は大体定まってきた。今では、子供の時のようなワクワクを感じることはあまりなくなった。鈍くなってしまったのか、それとも知ってしまっているからか。小学生の時の誕生日はなぜあれほど待ち遠しかったのか。クリスマス前日は、どうしてああもワクワクが止まらないのか。遠足前に楽しみで寝れないなんてことは、もう無くなってしまった。しかし、しかしその胸躍るような期待感が薄く心を覆っている。少年心というものが、また俺に火を付けようと燻り始めているのだ。


 ということで、島根謎解き散歩で一番目を引いた「宣揚祭」について調べてみた。




“天上界から天照大神に追放された須佐之男命が降り立った出雲の国の肥の河上、鳥髪の地にある船通山。この山に源を発し宍道湖へ注ぐ斐伊川は、ヤマタノオロチ退治伝説の舞台となったことで知られています。


 宣揚祭では、退治されたオロチの尾から天叢雲剣が現れたという神話に基づき、須佐之男命の姿に扮して剣の舞が勇壮に演じられ、船通山登山の安全が祈願されます。”(ホームページ抜粋)


 こいつほんとに大学生か? というレベルの雑魚引用をかましながら調べてみると、なんと今年はまだ宣揚祭が行われる日程が定まっていないようなのである。例年七月二十八日に行われているらしいのだが、調べてみても去年の関係者のみで執り行いました、という文言が出てくるのみ。Twitter廃人の俺が調べてみても、今年の情報は得られなかった。そもそもアクセス方法を見てみると、車が必須らしいのである。お祭り当日はバスが往復一本分のみ出ているらしいのだが、乗り遅れてしまったら、という恐怖が襲ってくる。当日はスマホで調べることができないため、普段バスに乗らない人間が右往左往している姿が容易に目に浮かぶ。だが神楽舞は見たいのである……。燦々と降り注ぐ日光の下でやる、神楽舞を見たいのである。これは神楽舞なのか? というのは置いておいて、なんかそういう神事として奉納する舞を見たいのである。


 だが今年はやるかどうかもわからない。出来れば見たい……! とりあえず、これを見るためだけに七月の二十八日前後に決めた。大学のテストとかレポートとか、そういうのが被ってなければ、の話ではあるが。


 しかし、宣揚祭が今年も関係者のみで執り行なわれた場合はどうすればよいのだろうか。そんな時に便利なのがネットである。文明バンザイ。お前がいない生活なんて考えられないょ……あたしたち、ズッ友だょね……?


 ということで島根県夏祭りで調べてみた。神楽を舞ってるところは!? 神輿がぶつかり合う喧嘩祭を発見した。神輿か、見たことないな。ここもあり。候補として入れようと思った。


 次の投稿までにどこの夏祭りに行くか決めようと思う。もしよければ、島根県で七月か八月に舞を見る事が出来る夏祭りを教えてほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る