スマホを持たずに一人旅してみようと思う

水汽 淋

第1話

 一人旅がしたい。

 スマホとかなんも持たずにさ。

 本とメモ帳だけ持って、知らない街に行きたい。町、あるいは村でもいい。


 そう思って調べてみると(やっぱりスマホを持たずに知らない所に行くのはとても勇気がいる)、デジタルデトックス、なんて洒落た言葉が出てきた。

 どうやら、ネットに繋がらない自分の時間を楽しもう! という意図らしい。

 その時点で脱却できていないではないか、と俺は思ったけど、だからこそ最初に明記しておきたいのは、俺はそんな目的でやろうとしてるんじゃないってことだ。


 この旅は、文フリに出すための小説のネタ探しの旅であり、また永久にスマホを触ってしまう自分の戒めとしてのカンヅメ行為である。そのため、都市部への観光を目的としていない。

 この旅の目的は、スマホから強制的に離れ、移動中に本を読み、ボーッとした時間で思索をすることなのだ。そして良いネタが浮かべばネタ帳に書き込む。

 社会人になればそうそう出来ることではない、はずだ。少なくとも、この旅が終わったあと、すぐに仕事だのを考える必要はない。

 自分探しの旅でもない。ほんとに。デジタルデトックスでもない。

 俺は学生の内にしか出来ないこと、青臭さも求めている。

 そういう理由と目的で、俺はスマホ無し一人旅をすることに決めたのだ。


 そうと決まれば話は早かった。今は6月下旬。夏が来る。


 誰もが想像するように、俺は夏の幻想的な田舎をイメージした。清廉な空、柔く厚い純白が巨人のように立ち、それらを凪いだ田んぼが反射する。人工物など見えない原始の道を、半袖を捲くったおっちゃんが自転車をこぎこぎ、竿を担いでいる。

 俺はこの光景が見たかった。心の原風景を、ぜひ見なければと思った。


 どこにしよう、というのが一番大事な所である。運命も感じたい。わかるだろうか。思い立って途中で降りてみた駅、全く知らない住宅街、地元とは全く違う風景。それこそが俺の心の充実を満たすための、欠けてはいけないピースなのだ。


 しかし、どこへ?


 まず、俺の住んでいる場所は関西である。関西圏は……嫌だ。個人的に、行ったこともない県に行きたい。

 となると、中国地方か四国になる。もう観念して白状すると、住んでる場所は兵庫県だ。だから中部は少し遠すぎる。

 スマホ無しで行くには、やはり少し遠いところは怖い。誤差だと思うかもしれないが、そういった機微は大事である。

 四国は去年友達と旅行で巡った。となれば、そう。中国地方しかないのである。父の出身地である山口に行こう。


 俺は地理が壊滅的であるため、山口ってどれくらい遠いのか地図で確認する必要があった。

 鳥取の横くらいかな、と思ってたらその横の島根の更に横だった。遠い。だからやっぱ島根にしようと思う。

 名前からして、俺の目的にぴったり嵌まる名前なのがいい。こういうのは直感だ。山口? 忘れて欲しい。

 岡山は、隣の県はさすがに近いなと思ったので辞めた。



 島根県!

 島根県は、出雲しか知らない。地理が壊滅的なのでしようがない。そこでウィキペディアで調べてみた。宍道湖(なんて読むねん)が気になった。というか、沿岸群という言葉が俺の興味をぐぃっと引っ張った。海。これも心の原風景に刻まれている。

 そうこうしていると、なぜか島根県の歴史が気になってきた。旅に不思議な充実感を与えてくれそうだった。

 その土地を知ることで、思いを馳せることができる……。これはただの願望なのだが、それを実現するための努力はせねばなるまい。

 そういったわけで、図書館でざっくりと島根の土地や歴史について書いてある本でも借りようと考えた。

 新たな目的地の確保。これも大事だ。興味のある場所へと赴きたい。



 これを書いている今現在、未だなんの準備もしておらず、目的地すら定まっていない。どのようにそこまで行くのか、それも考えてない。7月か8月にしよう、いやその時期にせねばなるまい。決まってるのはこれくらいだ。


 これは、俺がスマホ無し一人旅をするまでの日記として、そして帰って来たあとのルポ的なものを書くための場所として残そうと思う。

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