舘野桜
「こちらが、咲哉の懺悔ノートになります。」
「読ませてもらいます。」
「どうぞ」
私には、咲哉の気持ちがわかっている。
【香乂さん、俺ね、女の子には優しくしなきゃいけないって教えられたのにね。桜には、出来ないんだよ。このままだと、桜を殺しちゃう気がして怖いんだよ】
エスカレートしていく、自分をコントロールするのが難しい気がしていたんだと思う。
「こんなに、悩んでいたのを私は、知りませんでした。」
「すごく悩んでいましたよ。舘野さんを愛しているから、凄く悩んでいました。」
「私は、咲哉を受け入れてしまっていました。」
私は、ティシュを差し出した。
「舘野さんに、受け入れてもらえた事を咲哉はとても喜んでいましたよ。ただ、受け入れてもらえばもらう程にエスカレートしていく自分を止められない事を悲しんでいました。」
「どうすれば、よかったんでしょうか?」
「わかりません。私もそうですが、受け入れられてしまうと、拒まれる事を酷く恐れてしまいます。だから、流れに身を任せるしかなかったのだと思います。咲哉は、とても苦しい所にいたと思います。それでも、離れなかったのは舘野さんを愛していたからです。忘れないであげて下さい」
舘野さんは、涙を拭っていた。
「香乂さん、私、今。一緒に暮らしてる人がいるんです。その人は、甘えん坊で…。退屈な愛情しかもらえません。どうしたらいいのでしょうか?」
「その人と、舘野さんが一緒にいたいのであればいるべきですよ。退屈なぐらいが、愛はいいのかもしれませんよ。」
私は、三人に笑った。
「お酒をお出ししましょうか?」
「はい、香乂さんも大乂さんも何か飲んで下さい。」
「ありがとうございます」
「凄く美味しい白ワインがあるのですが、皆さんで飲みませんか?」
「いただきます」
「大乂、お願いします」
「はい」
大乂が、白ワインを開けてくれる。
「香乂さんは、どうしてこのbarを出したのですか?」
「私みたいな人間がいるのではないかと思ったからです。自分の性癖に気づき、抗えず、苦しめられる。そんな人間がいるのではないかと思ったんです。」
大乂は、ワイングラスにいれたワインを置いていく。
「沢山いたって事ですね。」
「そうですね、少なくともこの場所では、自由です。たまに、苦しめられていない方もいらっしゃいます。私のコンセプトが、囚われた方だけなので、その場合はお断りしています。」
大乂は、白ワインをみなさんに渡した。
「いただきます」
「どうぞ」
「美味しいです。」
「それは、よかったです。」
舘野さんは、咲哉の文字を指でなぞった。
「囚われているのは、私も同じかもしれません」
「どうしてですか?」
「咲哉の愛情に囚われていて、今の彼をちゃんと見ていなかった気がします。明日からは、少しずつ向き合って行こうと思います」
「それが、一番かもしれませんね」
「また、こちらに来てもいいですか?」
「勿論ですよ」
カランカラン
「いらっしゃいませ」
「赤ワイン」
「かしこまりました。」
「大乂、よろしく」
「はい」
私は、大乂に赤ワインを頼んだ。
「あの桜の木に行くんですよね?」
「今日は、12時に閉めますのでその後で行きます。」
「私達三人もついていってもいいですか?」
「かまいませんよ」
「あの、どうして三人と仲良くしていたのですか?」
花井さんは、手をあげて尋ねた。
「どうしてですか…。昔の私に似ていたからかもしれません。三人の苦悩を私は、とても理解できました。この場所にいる間だけは、忘れて欲しい気持ちでした。」
「いなくなって、寂しいんですね」
「そうですね。もっと仲良くなりたかったのは、事実です。とても、楽しかったですよ。三人が、ここで楽しそうに桜さんの話をする姿が忘れられません。」
私は、そう言って三人の桜さんに笑いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます