咲哉の目覚め
13年前ー10月
「いらっしゃいませ。囚われている方以外の入店は、お断りしております。」
「囚われてるとは、何ですか?」
「ここでは、性的思考でしょうか?あの方は、マゾティストです。私は、サディスト。あの方は、子供しか無理です。あの方は…。」
「だったら、俺も入れますね」
「あなたは、何ですか?」
「一緒に暮らしてる彼女を力でねじ伏せたくなるんです。」
「そうですか、では、お入り下さい」
私は、彼を案内した。
「お名前は、偽名でも結構ですよ。」
「咲哉です。」
「さくやですか、どんな漢字でしょうか?」
彼は、私の差し出したノートに名前をサラサラと書いた。
「ご注文は?」
「ビールで」
「かしこまりました。」
私は、ビールを持っていく。
「女の子には、とにかく優しくしなさいって言われていたんです。両親から…」
「はい」
「なのに、桜と住みだしてから…。桜を力でねじ伏せる事ばかり考えてしまうんです。俺は、どこかおかしくなったんですよね」
咲哉は、ポロポロと泣き出してしまった。
私は、咲哉にティシュを差し出した。
「おかしくは、ありませんよ。それが、あなたの性癖なんだと思います。」
「でも、痛めつけたりしたくない。桜に優しくしてあげたいんです。」
「それならば、出来る限り優しくしてあげるべきではないですか?」
「出来ますかね?」
「わかりません。」
咲哉は、目頭を押さえて俯いた。
「自分でもこんな事に突然なって、ビックリしてるんです。俺は、女の人には全員に優しくしてきました。なのに、桜を力ずくで押さえつけたいなんて」
「それは、初めてあなたが彼女を誰よりも愛したという事でしょうか?」
「そうなんですか?」
「わかりません。ただ、私が支配したいと彼女に思った日は、その彼女の為に死んでもいいと思えた日と同じでした。私は、彼女を深く愛したと今でも思っています。」
「それなら、俺もそうです。桜の事は、本当に大切です。桜以外と歩く人生は、考えられない。だから、同棲を始めたんです。」
「それは、素晴らしい事ですよ」
私と咲哉の会話にリッキーさんがやってきた。
「そんなに愛してるなら、やってみろよ」
「嫌われたくないです」
「そんなんで、兄ちゃん。自分を抑えつけたら、後で取り返しつかなくなっちまうぞ」
「やっぱり、受け入れてもらう方がいいんでしょうか?」
「酔ったフリして、やってみたらどうだ?案外、すんなり受け入れてくれるかもよ」
その言葉に、咲哉は頷いていた。
「あの、マスターは、女性が好きなんですか?」
「私ですか?なぜでしょうか?」
「そんなに、綺麗な容姿ならどちらにも好かれそうだと思いまして」
「そうですね。私は、両方いけますよ。私の中で、男や女という概念はありません。好きになった人が好きなだけです。それは、今も昔もかわっていません。」
「今は、好きな人は?」
「残念ながらいません。なので、あなたの話が羨ましいです。そんなに思える人がいて」
咲哉は笑いながら、頬を掻いた。
「何だか、照れます」
「後、マスターじゃなく香乂でいいですよ。」
「香乂さん、これからもこちらに来てもいいですか?」
「勿論です。後、こちらをどうぞ」
「懺悔ノートですか?」
「はい、こちらに来られる方は、皆さん、自分の性癖に苦しんでおられます。何かをやってしまった時、この懺悔ノートに書いています。勿論、犯罪は駄目ですよ。例えば、この方の懺悔を見てください。」
「彼女の寝顔を盗撮した。」
「それは、俺のじゃねーか、香乂」
「失礼しました。」
「ハハハ、凄いね。このノート」
咲哉は、この店に来て初めて笑った。
「兄ちゃん、いい顔してるぞ」
「ありがとうございます」
「一人で悩まずに、皆で解決しましょう」
「わかりました」
咲哉は、ニコニコ顔で帰っていった。
これが、咲哉の目覚めだった。
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