並川桜
「これが、葵の懺悔ノートです。」
私は、並川桜に差し出した。
「読ませてもらいます。」
「どうぞ」
私には、中身を読まなくてもわかる。
【
葵は、よくそう言っていた。
「香乂さん、私の今与えられてる愛は退屈なんです。」
「そうですか」
「それでも、彼と結婚する事が決まってる」
「そうですか」
「このまま、結婚してもいいのでしょうか?」
「それは、並川さんが決める事です。ただ、一つ言えるのは葵は並川さんをとても愛していたという事です。」
「あの、さっきのトミーって誰ですか?」
「トミーですね。もう、来ていませんよ。いつから、来ていなかったでしょうか?」
私は、ノートを探す。
「大乂、トミーを覚えていますか?」
「あー。覚えてるよ。でも、来なくなったはずだよ。楽しくないとか何とか言って」
「そうだったか」
「香乂さん、今日店終わったら、桜の場所に行ってくるよ。」
「私も、早く閉めて行こうかな」
「それって、葵達の所ですか?」
「ああ、毎年お花を供えに言ってるんだ。大乂と二人で」
「知らなかったです。」
並川さんは、そう言って笑った。
「あの日、私が三人をタクシーに乗せればよかった。」
「あの日、三人は歩いて帰ったんですか?あの雪の中」
「ああ、歩いて帰ると行ったよ。あの時間帯は、雪は小降りになっていたから。大乂も覚えてるだろ?」
「うん。歩いて帰るって行ってたね。三人で、帰れば大丈夫だからって…。」
「それで、車に跳ねられたんですね」
「なぜ、あの桜の木に行ったのだろうか?」
大乂と私は、真剣に考えていた。
「思い出せないよ。そんな話してなかったし」
「そもそも、桜の季節でもないのに桜を見に行く必要はないよな」
「確かに、そうだよね」
「並川さんに、何か話してませんでしたか?」
「いえ、何も話してませんでした。私は、葵の苦しみや痛みを一つも理解していなかったのかも知れないです。」
「葵は、並川さんをとても愛していましたよ。理解なんかされていなくても、並川さんが受け入れてくれている事がとても幸せだとよく話していました。」
「そうだったんですね」
「並川さんが、幸せになる事が一番だと思いますよ。」
「私は、葵の事を何一つ知らなかったんだと思います。」
「そんな事は、ありませんよ。葵が、並川さんの話をする時の笑顔を私は、今でも覚えていますよ。みんなに、平等に接していた葵にとって、並川さんは特別だった。だから、どうすればいいかわからなくなった。並川さんを支配する事で、初めて他の人と違う気持ちを感じたんです。」
並川さんは、涙を拭っている。
「葵は、私とずっといてくれましたかね」
「結婚していたと思いますよ。並川さんを愛していましたから…。生きていたら、葵も33歳ですか?」
「はい」
「早いものですね」
「香乂さん、葵の話を沢山聞きたいです。駄目ですか?」
「構いません。いつでも、遊びに来てください。リッキーさんは、今日は来ませんが、あの人は三人と結構話していました。私より、知っていると思いますよ」
「ぜひ、お会いしたいです」
並川さんは、満面の笑みを浮かべた。
「あの、咲哉はいつここに来ましたか?」
「咲哉が、一番最初の訪問者でしたね。」
私は、舘野さんの前に行く。
「咲哉の事をお話しましょうか」
「はい、よろしくお願いします。」
「では、こちらを」
私は、咲哉の写真を舘野さんの前に置いた。
「これは、咲哉が初めて私の店にやってきた日の写真です。」
「とても、暗いですね」
「はい、とても悩んでいましたから…。」
私は、そう話した。
「咲哉は、本当に悩んでいました。女の子に優しくできない自分に…」
私は、そう言うとあの日を話し出した。
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