葵の目覚め

13年前ー11月


「いらっしゃいませ。囚われている方以外の入店は、お断りしております。」


「囚われてるとは、何ですか?」


「ここでは、性的思考でしょうか?あの方は、マゾヒストです。私は、サディスト。あの方は、子供しか無理です。あの方は…。」


「だったら、俺も入れますね」


「あなたは、何ですか?」


「一緒に暮らしてる彼女を押さえつけたくて堪らないんです。」


「そうですか、では、お入り下さい」


私は、彼を案内した。


「お名前は、偽名でも結構ですよ。」


「葵です。」


「あおいですか、どんな漢字でしょうか?」


葵は、私の差し出したノートに名前を書いた。


「お飲み物は?」


「ワイン飲めますか?赤で」


「かしこまりました。」


私は、ワインを差し出した。


「あの、俺はおかしいのでしょうか?」


「なぜでしょうか?」


「彼女を支配したいんです。俺は、人にそんな気持ちを抱いた事はありません。人間は、みんな大好きなんです。」


「あなたの中で、愛情が芽生えた証なのではないですか?」


「どういう意味でしょうか?」


「みんなと同じ愛情では、足りなくなったって事ではないですか?」


葵は、納得した様子で頷いた。


「俺は、桜に特別な感情を抱いているって事なんですね。」


「少なくとも私には、そう感じましたよ。」


「そうなんですね。それでも、俺は、こんな事実行すべきじゃないです。」


「抑えつけますか?」


「はい、そうしなければいけないと思っています。」


目頭を抑えながら、俯いた。


「あー。兄ちゃん。それ、抑えなくていいんじゃないか?」


「リッキーさん」


「なんか、可哀想になっちまってよ。先月来た兄ちゃんも、あれからみねーしよ」


そう言って、リッキーさんは葵の隣に座った。


「俺の親友は、性犯罪おかしちまったんだよ。抑えつけてよ」


「そうなんですか?」


「ああ、あいつは、電車とかそんなんじゃなきゃ駄目でな。あっちにいる。まーやんが同じタイプだったんだよ。だけど、駄目だ駄目だって言ってな。まあ、弁護士だからよ。当たり前か」


「それで、どうなったんですか?」


「盗撮して、逮捕された。で、釈放されて海にドボンだ。どこに行ったかな?」


リッキーさんは、そう言って目頭を押さえていた。


「まーやんとなら、うまくいったのになあ?香乂」


「ですね」


「そう何ですか?」


「そうだよ、その為のここだ」


「そうなんですね。」


「そうだよ」


葵は、ワインを飲みながら考え事をしていた。


「彼女にやってみてもいいのでしょうか?」


「私は、いいと思いますよ」


私は、葵にノートを差し出した。


「これは?」


「懺悔ノートです。」


「懺悔ですか?」


「ここは、苦しんでいる人がくる場所です。悩んでいないのなら、私は、この場所にいれません。あなたは、悩んでいる。なので、お入れしました。彼女にした事が辛ければ、こちらに書いて下さい。皆さん、そうされています。」


「皆さん、苦しんでるんですね」


「はい、皆さん、苦しんでおられます。」


「兄ちゃん、頑張れよ」


「はい。受け入れてもらえるかわかりませんが、やってみたいと思います」


「少しずつだぞ、一気にやるとひかれちまうからな」


「わかってます。」


葵は、自分の衝動に戸惑いつつも受け入れていこうと決めていた。


「どうしてですかね。突然、こんな思考になるなんて事あるんですね。」


「私もそうだったから、わかるよ。二十歳の時に突然目覚めた。最初から、あるものもいるが…」


「最初からの思考のやつは、結構残忍なやつが多いよな。偏見だけどさ。ほらほら、あいつのせいでさ。香乂、覚えてるだろう?」


「あー。トミーの事だな」


「トミー?」


「誰かを服従させる事に重きをおいていた。」


「トミーは、反省なんかしなかったよな。」


「確かに」


葵は、その日少しだけホッとした顔で帰って行った。


これが、葵の目覚めだった。

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