忘れられない人ー咲哉ー

私は、今、咲哉の幼馴染みの春一と付き合っている。


「もう、今日は無理だわ。疲れた」


「服着替えて、寝たら?」


「そうする」


「おやすみ」


「明日は、するからな?」


チュッとキスをして春一は、寝室に行った。


別に、期待なんかしていない。


咲哉と出会ったのは、成人式の会場だった。


「待って下さい」


「はい?」


「あの、よかったらお茶しませんか?」


「お茶?」


新手のナンパだった。


「いいですよ」


「やったー」


成人式の会場で、私を見て一目惚れしたという話だった。


「ゆっこちゃん、それちょうだい。ありがとう」


「南ちゃん、ありがとう」


咲哉は、女友達が沢山いた。


「咲哉、桜ちゃんいんのにやめろよな。愛想振り撒くの」


「これが、俺だから。ねぇー。愛奈ちゃん」


咲哉の女の子に優しい所に、私は、イライラしていた。


「ホストにでもなれば?」


「怒ってんの?」


「別に」


「女の子には、優しくしなさいって親に言われてたからさぁー。」


「だから、ホストにでもなればっていってんの」


「桜、怒んないでよ。俺が大事なのは、桜だよ」


そう言って、優しい言葉をかけられて、私は、許してしまうのだ。


咲哉が、女の子に優しいから私にも優しいのは知ってる。


でも、咲哉の中で私だけが特別じゃない。


悩んでいた日々から一年が経った。


「桜、一緒に住まない?」


「えっ?」


「ほら、どっかいっちゃう気がして不安なんじゃないかな?って思ってさ」


「住む」


私は、咲哉に抱きついた。


これで私は、不安から解消されると思った。


一緒に住み始めても、咲哉は変わらなかった。


1ヶ月が経った頃だった。


その日は、咲哉が友達に頼まれて合コンに参加していた。


私は、ソファーで眠ってしまっていた。


深夜帰宅した、咲哉が豹変したのを今でも覚えている。


「桜、口開けろ」


「なに?」


「脱げよ」


「離して」


「うっせー」


咲哉は、力任せに私をねじ伏せた。


「酷いよ、咲哉」


「ごめんね、桜」


やられた私よりも、咲哉が泣いていた。


それから、性生活が変わった。


「おい、啼けよ。もっと、啼け。欲しいって言えよ。何が、欲しいか、ちゃんと言えよ」


「咲哉様の………が、欲しいです」


卑猥な言葉を浴びせ、口に出すのもおぞましい言葉を吐かされた。


不思議と幸せだった。


「ごめん、桜。本当にごめん」


終わると罪悪感から、ボロボロと震えて泣き出す。


「いつか、桜を殺したらどうしよう」


いつしか、咲哉はそれに怯えるようになった。


「殺すまでじゃないじゃない?」


後で、調べてわかったのは、咲哉は性的サディストだった。


でも、私は、幸せだった。


咲哉が、誰にも見せない顔を見れていたから…。


【あの事件から、丸一年が経ちました。依然、犯人の足取りは掴めず。何故、三人が殺されなければならなかったのかわかっていません。】


何故、咲哉が死んだのか…


私は、知る術もなかった。


「桜、何してんの?」


私は、引き出しの写真を手に取ろうとして、やめた。


「寝ないの?」


「起きちゃった?」


「うん」


「寝ようか」


「うん」


春一は、甘えん坊だった。


「行こう」


手を繋いで、ベッドに連れていく。


「おやすみ、桜」


「おやすみ」


「愛してるよ、桜」


「私もだよ」


愛してるなんて、簡単に口に出せた。


私の胸の中の大部分は、咲哉が占めていた。


私は、咲哉と一緒に死にたかった。


こんなにも、愛されているのに…


こんなにも、満たされないって誰が教えてくれた?


咲哉と過ごした五年間


咲哉が、豹変した三年間


咲哉の変わりなど、存在などしないと


この10年で、嫌というほど思い知った。


明日は、咲哉の命日だった。


私は、咲哉に会いに行こうと決めた。


春一を抱き締めて、眠りについた。


咲哉、一緒にいた人は誰だったの?


何故、咲哉は殺されなければならなかったの?


咲哉…。

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