三人の桜

10年前の今日1月7日は、大雪の影響で辺り一体に人気はなかったと言う。


今年は、雪など降っていなかった。


ここの桜は、有名だった。


あの日、この一本の桜の木は三人の男の血に染まっていた。


綺麗にするのが、大変だったという。


私は、その木の根本に、花を手向ける。


「あなたは?」


突然、声をかけられた。


「私は、花井桜はないさくらです。あなたは?」


並川桜なみかわさくらです。初めまして」


「そちらは?」


私は、後ろに立っている人に声をかけた。


舘野桜たてのさくらです。初めまして」


偶然にも、私達は同じ名前だった。


「ここにいるって事は、亡くなった人と関係ありますか?」


並川桜さんが、そう話した。


「はい。私の彼氏は、水島優季みずしまゆうきです。そちらは?」


「私は、市村葵いちむらあおいの彼女です。」


並川桜さんは、そう言った。


「私は、相馬咲哉そうまさくやの彼女です。」


舘野桜さんは、そう言った。


「あの、優季とお二人の彼氏はどういう知り合いだったのでしょうか?」


「わかりません」


「私も知りたいんです」


そう言って、二人は首を横に振った。


「もしかして、これは関係ありませんか?」


私は、真希まさきが渡してきたマッチを見せた。


「barですか?」


「私は、今、優季の双子の弟と付き合っていまして、彼が私にこのマッチを渡したんです。沢山、このマッチを持っていたみたいなんです。」


「行ってみませんか?」


「はい」


私達、三人は、その場所から近い場所にあるbarにきた。


「いらっしゃいませ」


目を奪われるほどの綺麗な男の人が、私達にお辞儀をした。


「お昼からやっているのですか?」


「はい、今日だけは特別なんです。」


綺麗な顔が、ニコリと笑った。


「どうぞ、こちらに」


そう言われて、カウンターに座った。


「まだ、夜ではありませんのでジュースにしましょう。」


そう言うと、その人はグラスにりんごジュースを三つ注いだ。


「初めまして、花井桜さん」


そう言って、私の目の前にグラスを置いた。


「えっ?」


聞こえないフリをして、真ん中に座る彼女にりんごジュースを差し出す。


「初めまして、並川桜さん」


「えっ?」


彼女の声も聞いていなかった。


「初めまして、舘野桜さん」


「あの、どうして?」


その声に、店員さんはニッコリと微笑んだ。


「三人から、写真を見せられていましたから…。盗撮だと笑っておられましたがね」


そう言うと、その人は引き出しを開けた。


そして、私達三人の前に写真を置いた。


「優季、葵、咲哉です。大の仲良しでね。週三回は、ここにきました。」


優季は、見たこともない顔で笑っていた。


「毎夜、毎夜、桜ちゃんの話をするんです。」


そう言って、笑っている。


「あの、葵は私の事を何て言ってましたか?」


「葵は、申し訳ない事をしていると言っていました。性的サディストって、言葉をご存じですか?」


私達は、顔を見合わせる。


その人は、引き出しからノートを取り出してきた。


「私も、その住人です。」


「だから、この店の名前って」


「私の事です。」


bar【囚われの住人】


「性癖に難のあるもの達の集う店です。」


そのノートが、開かれる。


「懺悔ノートです。」


「懺悔?」


「はい、抗えない性癖を自分で責めているものが集まっているお店です。だから、ここは、囚われの住人です。」


この人を見て、性的サディストだとわかる人は絶対にいない。


「申し遅れました。私は、この店のオーナー兼店長をしております。新巻香乂あらまきこうがと申します。」


差し出された名刺を見つめる。


「珍しい名前ですね。」


「本名ですよ。」


そう言って、笑った。


この綺麗な顔の人が、優季のようになるのかと思うとゾクゾクと背筋に寒気が走った。


「どうして、三人は殺されたのですか?」


「舘野さん、それは私にもわかりません。ただ、一つ言えるのはあの夜、三人は殺して欲しいと切望していました。」


「どうして?」


「さあ?これ以上、愛する人を傷つけたくはないと言っていました。なぜ、三人がその思考をもったか聞きたいですか?」


私達、三人は強く頷いていた。

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