第11話 特攻作戦2

 これまでの戦闘の中で、江戸城内部に入った忍者は誰一人としていない。江戸城を囲む大量の武士ゴーストの対処に手一杯だったからだ。そんな魔境を、若手忍者たちは捨て身の覚悟で進んでいく。

 幸い、城内のレイアウトは変形していないようだ。事前のオリエンテーションで、江戸城内のマップは頭に入っている。目指すは、徳川ゴーストがいる天守閣だ。

 石垣を走る。曲がり角を曲がると、大量の武士ゴーストが体を横にして飛んできた。すぐさま隊列を縦長に変更する。殲滅する必要はない、やるのは一点突破、それだけだ。

 紫の津波の中を、さながら魚雷のように、彼らは走った。走って走って、彼らはついに、天守閣の前にたどり着いた。

 

 彼らは、眼前にそびえたつ天守閣を見上げた。

 本来ならば、現実の江戸城には天守閣はない。あるのはその土台の天守台だけだ。この幻想の天守閣は、徳川ゴーストと、若手忍者の目の前にいる呪術師、祐天の力によって構成されていたのだ。 


 祐天は中空から見下ろしていた。ゆっくりと片手をあげると、祐天の周りに黒い靄が複数発生した。

 先頭にいた若手忍者が、左手を腰の後ろに回し、右方向を指さした。それを見た平太は、少し右に重心を寄せて、身構えた。 祐天が上げた手を下ろすと、黒い靄が若手忍者たちに向かって飛んできた。と同時に、若手忍者たちは横方向に散開する。そして全員で霊写銃を構え、一斉に発光させた。

 捉えた、と思った矢先、白い光の中を黒い靄が流星のように突っ切り、何人かの若手忍者に衝突した。

 他の忍者は驚愕した。霊写銃は霊体に対する防御不可能の攻撃手段。これは祐天も同様のはず。それがなぜ…?

 撮影光が収まったあと、中空に大きな黒い靄が浮いていた。靄はうねるように移動し、その隙間から祐天の姿が見えた。簡単なことだ。祐天はあの靄を遮蔽物にしたのだ。撮影されたとしても、映っていなければ効果はないのだ。やはり特攻は今日で正解だった。明日になれば、武士ゴーストは刀以外の武器を持っているかもしれない。

 黒い靄に包まれた忍者がこちらを向き、忍者刀を構えている。形成が逆転するのは、時間の問題かもしれない。

 だが、今回はこちらの勝ちだ。と若手忍者たちは笑った。


 内部は不思議と閑散としていた。侵入されることを想定していなかったのだろうか、それとも信条なのか。なんにせよ、敵がいないのは平太にとって好都合だった。平太は忍者刀を持ちながら、廊下と階段を駆け上がっていく。霊写銃は、おそらくここでは使えない。天守閣自体が霊的な何かで構成されているからだ。使ってしまえば、壁や床、柱が丸ごと消失し、この建物自体が崩壊してしまうかもしれない。そうなれば徳川ゴーストを捉える可能性は低くなる。

 

 駆け上がること数十秒。平太は、頂上にたどり着いた。辺りを見渡すと、護衛は誰もいない。何の音も聞こえない。壁一面まで広がった、異様に圧力を感じさせる、大きな襖だけが平太を待ち構えていた。

 意を決して、平太は走り出した。襖の取っ手に手をかけ、力いっぱい開け放す。

 その奥には、あの時スマホで撮影した徳川ゴーストが、こちらに背を向けて佇んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る