第9話 伝統

 忍者本部の幹部たちがいる会議室に入った3人は、忍者本部の幹部たちへ「隠れ里」の活動報告を簡潔に行った後、霊写銃を幹部たちに見せた。平太が霊写銃が忍者本部の勝利に貢献することを説明し始めたところ、「なんだこれは」と、幹部の一人がぶっきらぼうに平太の説明を遮った。

 平太たちは質問の意図をはかりかねた。見かねた幹部が、ため息をつきながら、「こんなものを忍者に使えというのか」と言った。

 「これが現在の最善策です。」と蛇蝎が返答した。しかし幹部はこんなものを忍者が使っていい訳がないと語気を強めた。


 他の幹部も連なって、「我々は江戸時代から続く伝統ある組織だ。こんなガチャガチャした武器で戦うことは許されない」と熱弁した。

 「でしたら今の忍者も伝統の内です、文化は時代に合わせて変化するものでしょう?」と乙女も返答する。

 「違う、文化のあり方を決めるのは国民だ、国民が認める伝統を、我々が勝手に変えるわけにはいかない」と幹部の力がさらにこもる。

 いい加減にしてくれ、今も戦場で現代の忍者が戦っている、この銃を使わないと負ける、なぜそれがわからないのかと平太は声を荒げながら質問した。

 幹部は、何度も言わせるな、伝統を裏切る行為は国民への裏切りだ、我々はこれまでのやり方で、徳川陣営に勝利しなくてはならないのだと怒号を飛ばした。

 だったら、なぜ国民への理解を得られるよう動かないのか、戦況を悪化させたのはあなたたちだろう、伝統を国民が決めるなら、伝統を変える必要があるのなら、あなたたちは国民に理解してもらうよう動くべきだろう、それすらやらずにこちらを否定するのは――

 そこまで平太が叫んだところで、柿原は平太を制止した。 


 会議室にふいに訪れた静寂。その中心にいた柿原は、静かに幹部たちと若手忍者たちとを右手で分断していた。そして淡々と、妥協案を考えましょう、と発言した。

 平太たちと幹部たちは、どちらもこらえるようにして黙った。柿原は続けた。我々の目的は徳川ゴーストの撃退です。要は頭さえつぶせばよい。武士ゴーストから順に倒さなくてもいいんです。武士ゴーストは所詮、徳川ゴーストに呼び出されただけですから、徳川ゴーストを倒せば勝手に消えるはずです。そこで、提案があります。

 一呼吸おいて、柿原は考えていた作戦を述べた。簡単に言えば、特攻である。上級忍者と中堅忍者を一か所に寄せ、武士ゴーストの壁が薄いエリアを作る。そこに霊写銃を持った若手忍者たちが特攻し、一気に江戸城を駆け上がり、徳川ゴーストを撃退する。

 平太たちは、少し考えたのち、柿原の案に賛成した。一方、幹部たちは忌々しそうな顔をして黙っていた。平太は、数秒目を瞑った後、幹部たちに向かって、徳川ゴーストを倒したら、霊写銃は処分します。記録にも残しません。これでいかがですか、と提案した。

 幹部たちはお互いを見合った後、特攻作戦を了承した。

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