第5話 奪還

 柿原は、幹部たちのいる会議室の扉を叩き開けた。本件の指揮は私に一任されていたはずだ。奪還を開始するとはどういうことだと、ものすごい剣幕で質問した。

 徳川ゴーストの件について幹部たちは邪険に扱っていた。それゆえに、柿原一人に指揮を任せていた。それにそもそも、憑依忍者を奪還できることは幹部の誰にも話していない。なぜこんな話が公になっているのか。

 柿原に一番近い位置にいた幹部が、悠々と答えた。「我々も本件について検討したのだ。若手忍者が被害を被っている以上、我々も動くべきだと考えた。するといつだったか、呪術師と会議していた時に、除霊術について話していたことを思い出し、早速実践しようとなったのだ」と。

 嘘をつけと、柿原は一喝したくなるのをこらえ、まだ徳川陣営の動向が探れていないので、奪還作戦の開始を遅らせることを提言した。

 幹部は、「今の戦況なら、憑依忍者を奪還したらこちらが優勢になる。中堅忍者を全て動員すれば、決着はすぐだ」と答えた。そして、どう反論しようかと思案している柿原に向かって、「君はよく頑張ってくれた、次の席を用意しておくよ」と言った。


 翌日の夜。平太たちに憑依忍者奪還作戦の概要が告げられた。平太と蛇蝎は柿原の話と違う展開になっていることに驚いたが、自分たちにできることは目の前に現れる憑依忍者を助けることだと認識を改めた。

 若手忍者と中堅忍者には、忍具の他に、手のひらサイズの除霊札を数枚手渡された。この除霊札を憑依忍者に貼り付ければ、憑依忍者に憑いた霊を除霊することができる。

 また、手早く憑依忍者を奪還するために、陣形の中で攻撃をいなす忍者、隙を作る忍者、除霊札を貼り付ける忍者と役割を分けた。

 オリエンテーションが終わった後、忍者たちが一斉に出撃した。平太も走り始めたが、ふと右を見たときに、苦い顔をしている柿原の姿を捉えていた。

 

 江戸城にて。忍者側の第一陣が到着した。それに呼応するように、武士ゴーストが地面から生え、憑依忍者が次々と城内から現れた。

 憑依忍者と対峙したチームは手筈通りに除霊札を憑依忍者に貼り付けた。シュオォッという音と共に、憑依忍者が纏っていたオーラが消失し、憑依されていた忍者は力なく倒れた。


 憑依忍者奪還成功の報告は、戦場にいた忍者たちの士気を大きく上げた。第二陣にいた平太たちの手にも力がこもる。平太のチームは、江戸城城壁を目指して移動していた。乙女と遭遇した、あの場所だ。平太は息を大きく吸い込んだ。平静を保ってはいたが、心臓の音が収まらない。

 城壁が視界に入った瞬間、黒い飛来物を視認した。右手の忍者刀で弾く。間違いない、いる。

 そのまま前進していると、前方の地面から武士ゴーストが出現した。それに呼応するように、呪術師が呪文を唱え始める。

武士ゴーストの足が淡く光り、動きが止まった。平太と蛇蝎が同時に足元に潜り込み、かち上げるようにして忍者刀を振るった。武士ゴーストは頭と胴体を分けながら後ろに倒れ、消えた。

 その直後、来るぞ!と残りの忍者が合図した。前方右上側から飛来する3枚の手裏剣。平太たちは手裏剣を全て弾いた。

 と、その刹那。音もなく黒い影が平太に肉薄した。平太の後方左下側から忍者刀を構え、振り抜く。

 そこで平太は目線を動かすことなく、体を横にそらした。タイミングは既に知っていたかのように完璧だった。

 「それはもう見飽きてるんだ」と、平太は黒い影を抑え込んだ。平太と黒い影が地面に伏した。蛇蝎がすかさず除霊札を貼り付ける。気が抜けていく音と共に、黒い影から赤い忍装束が現れた。 

 「よかった・・・」と、平太は安堵した。

 腰を落としそうな平太の肩に蛇蝎が手をのせ、「ここは戦場だ、落ち着いている場合じゃない」と注意した。平太は慌てて気を取り直し、チームメイトに他チームのサポートを指示した。

 

 次々と憑依忍者の救出報告が届き、忍者本部にいた幹部たちは感嘆の声を上げた。「あとは消化試合だ」といった、呑気な声が会議室を飛び交った。

 幹部の一人が戦線にいる中堅忍者に状況を尋ねようと電話を手にした。すると電話が勝手に振動し始めた。幹部は驚きながら受話器を取る。

 「こちら本部、どうした、もう終わったのか」と上機嫌で話し始めた。ところが、相槌をしていくうちに、幹部の表情が曇りはじめた。「ちょっと待て」と一旦受話器を離し、幹部は、呪術師の町が襲撃されたことを他の幹部に告げた。

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