第6話 紛糾

 忍者本部は全ての憑依忍者の奪還に成功した。戦況は逆転し、徳川陣営の壊滅まであと少し・・・のはずだった。本部に届いた電話の主は、江戸城にいる中堅忍者ではなく、呪術師の町の長、星野だった。

 平太たちが憑依忍者たちを奪還している頃と同時刻、大量の武士ゴーストが呪術師の町に出現した。大群のゴーストたちを発見した呪術師は即座に警報を鳴らし、迎撃を試みた。しかし一対一の戦闘もままならない呪術師では太刀打ちできず、武士ゴーストの進軍を許してしまった。

 星野は、下手な抵抗は無用と判断し、呪術師全員に避難を命じた。そして、進軍方向を観察し、徳川陣営の狙いを理解した。

 武士ゴーストたちが目指していたのは、祐天寺だった。祐天寺にたどり着いた彼らは、祐天上人の墓を囲み始めた。その後、徳川ゴーストが現れ、墓の前で印を結んだ。すると、墓が輝き始め、その上空にすっと袈裟を来た霊が現れた。

 その霊は、江戸時代に徳川5代将軍徳川綱吉の元で活躍した大僧正、祐天その人だった。


 祐天。江戸時代を代表する呪術師。成田山での修行中に、不動尊から剣を喉に刺し込まれる夢を見て智慧を授かり、以後力量を発揮した天才。

 呼び出された祐天は徳川ゴーストに深くお辞儀し、両手を合わせた。数秒後、祐天寺とその周辺にある呪術師の町が徐々に揺れ始め、揺れが最大になった瞬間、ものすごい規模の武士ゴーストが出現した。一般人には何も見えず、地震としか感じていないが、呪術師の目には紫色に光る絨毯が呪術師の町を覆いつくしているようにしか見えなかった。

 呪術師の町だけではない。日本全土で武士ゴーストが出現していた地域にも、大量の武士ゴーストが一夜にして出現した。

 

 つまるところ、憑依忍者は戦力増強のための囮だった。忍者本部が憑依忍者の奪還の準備を進めている間に、徳川陣営は武士ゴーストの配置を気づかれないよう少しずつ変えていた。そして忍者本部が動き出すと同時に、祐天寺近辺に潜ませていた武士ゴーストを蜂起させ、強力な呪術師である祐天を呼び出し、戦力と拠点の増強に成功した。


 結果として、戦況は、徳川陣営の圧倒的有利となった。


 報告を受けた後、忍者本部は紛糾した。敗色濃厚な戦況に絶望する声、忍者は負けてはいけないのだと現実逃避する声、担当が我々にもっと強く進言してくれていればと責任転嫁する声。しかし、幹部たちと共に在席していた柿原が、ではどうするのかと尋ねると、水を打ったように静まり返ってしまった。

 柿原は大きくため息をつき、次の戦略を提案した。若手忍者、中堅忍者、上級忍者を全て動員し、戦線をできるだけ維持する。その間に、打開策を検討することを提案した。

 打開策を見つけられなかったらどうする、と反射的に幹部たちは批判した。柿原は、見つけられなかったらではない、見つけるしかないのだ。いい加減、分が悪い賭けしか選択肢がないことに気づいてくれ、と幹部たちを諭した。

 打開策の検討を任された柿原は、江戸の戦線を中堅忍者と上級忍者に任せ、江戸にいた若手忍者と若手呪術師を集めた。忍者側が圧倒的劣勢になっていること、打開策を若手忍者で考案する必要があることを知らされると、不安の声が漏れたが、今最も可能性があるのは若手の君たちだと激励した。

 そして柿原は、結成した新チームを「隠れ里」と呼称し、具体的な活動方針を提示した。

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