送り火

ちキ

第1話

 8月16日。

 夜が明けて辺りがよく見えるようになった頃、ふわっと花の香りがする香水、いくらでも食べれそうなお菓子、美しい旋律を繰り返す音楽団それに……あまりよく分からないがさっきから黒い霧のような何かに見られているような気がする。


 そんな現実世界では有り得ない絵空事のような夢を、僕はただ川の流れのように見ているだけだった。


 無意識に実際、僕はここにいてここが現実なのではないかと刷り込まれていき、今あるその光景に呑み込まれてしまいそうだ。


「今行かなければ門が閉じてしまうよ。さぁ行こう」


 懐かしいような兄の声が鼓膜をふるわせる。


 僕は驚き自分の目の前にある白い煙のようなものを凝視すると、小さい頃に川で溺れてた僕を助けて、代わりに亡くなってしまった大好きだった兄。


 そんな兄の面影のある人物が、僕の手を引いていた。


 濁りのない赤く、うるうるとした瞳が僕の顔をその瞳孔にとらえる。あまりにも美しく、この時の感情は天使を見た時に近かく、僕は後先考えずに

「ああ、行こう」静かに言った。


 僕達は二人で手を繋いで川辺を散歩していた時のように手を繋ぎ、黒い霧の中を走り抜けた。門から外に漏れだしている煙を身体中に纏いながらその中へ入っていく。


 大好きだった兄と共に。

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送り火 ちキ @09039921018

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