女神の想い

「私はどこにも行きません。私はここにいたいのです」

 

目覚めた女神は小さな声でいった。彼は驚いて自分の顔を腕で隠した。

 

なんて美しく気高く、そしてなんて優しい方なのだろう。あぁ、なんと水晶よりも透き通った瞳の色だろう。彼は、ゆっくりと腕を下ろした。

 

武神姿の神さまはいった。


「女神よ、ここにいるつもりなのかい?」

 

彼は、女神の顔を直接見ることも出来ずに、おずおずとうつむきながら、暖炉で暖めていたスープを少女に手渡した。


「ありがとう」

 

女神はにっこりと微笑みました。

 

その星が流れるようなきらめく声を、彼はいままで聞いたことがなかった。

 

なんて素敵なメロディのような声だろう。その声の調べを、ぼくの角笛で奏でてみたい。

 

女神がスプーンで一口飲むと、女神の頬に赤みが戻ってきた。美しかった女神は、ますます輝きを増してきた。定まらなかった光の集まりが少しずつあっていくように、なにか彼女のまわりが変化していっているようでした。

 

武神姿の神さまは困った顔をされていった。


「天の宮殿に帰らなくてはいけないよ。君は天の神のお子なのだよ」

 

彼は、何かが胸に突き刺さるようだった。


女神はきっとここを出ていくだろう。こんな貧しい自分といるよりは、立派な神さまたちといる方が幸せだもの。

 

女神はゆっくりと答えた。


「私を産んでくれてすぐに母神がお隠れになって以来。私は毎夜、悲しみに沈んでいました。そんなとき、どこからか私の心をなぐさめてくれるようなメロディが聞こえてきました。私は、その音を奏でる人に会いたくて、私は天から降りてきました。私がここにいるのは、彼のそばにいるために。ただそれだけなのです」

 

彼は感じていた。

 

毎夜、毎夜、角笛を吹く。すると誰かが遠くでそれを聴いてくれている。ぼくの音楽で心を慰めている人がいるのだと。どこにいるのかわからなかったけれど、ぼくの音は時の空を漂いながら、きっと届いていると感じていた。

 

ぼくが角笛を奏でると、調和するハーモニーが寄せては戻り、寄せては戻り、それは決して終わることのない海の波のように。女神の答は、ぼくを幸せで包み込むような優しい波のようなメロディに聞こえた。

 

そうだ。ぼくは、いつもこの方のためだけに角笛を奏でていたのだ。

 

女神は白く輝く手を彼にさしだした。

 

まだ少し冷えている指先を彼はそっとつかんだ。彼の瞳は涙であふれていた。


「私は、こんな森の中で貧しい暮らしをしています。あなたを幸せに出来るだろうか。」

 

女神は彼の手を頬にあてながらいった。


「私は、こんなに心豊かな人をあなた以外に知りません。あなた以上に優しい心の人を知りません。私は幸せになりたくて、あなたのところにやってきました。一緒にいてもいいですか?」

 

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