天上の神さまたち

その頃、天上の神さま方はざわめいていました。


「まだ幼い女神が天から落ちてしまわれたそうだ」


「女神は どこにおられるのだろう」



彼は湖から現れた少女を家まで運びました。以前、羽をケガした白い小鳥を助けたことを思い出していました。少女があの小鳥と同じくらい軽くて震えていたからです。

 

たきぎを焚いて暖かいベッドに少女を寝かせました。どんなに暖めても、冷え切った少女の体はあたたまりません。数日もの間、少女が眠り続けるなか、たきぎを絶やさず、ひたすら少女が目覚めることを願い、見守り続けていました。

 

彼は寝ている少女の顔をじっと見入っていました。

 

長い髪は星のランプの灯りで紫に見えます。小さな寝息は弱々しく、その顔は彼が今まで見たどんな花よりも美しいものでした。


「きれいだなぁ……」

 

この子が目覚め、自分の姿を見たら嫌われてしまうだろうな。

 

少女が目覚めることを恐れていた。それでも彼は、目覚めた少女に食べさせようと、お日さまのかけらを混ぜた美味しいスープをだんろで作っていたのです。いつでも彼女に食べさせてあげられるようにと。

 

すると誰かがドアをたたく音が聞こえました。

 

めったに来客のないこの家に、一体誰だろう?

 

それは美しく勇ましい武具を肩にかけた男の神さまでした。まさに非のうちどころのない、神々しいお姿だったのです。


「あなたは神さまですね。どういったご用ですか?」

 

と彼は恐る恐るたずねました。


「風が天をひとまわりする時間の前に、天の女神が天から降りていったのだ。君の家にいるその少女こそがその女神。わしはその女神を連れ戻してくるようと命じられて来たのだよ」

 

天に住まうとされる、神さまのお子か……。なるほど、そうか。それでは仕方がないな。

 

短い日々だったけれど、地に住む若神はうれしかった。とても幸せだった。ずっと孤独に生きてきた自分の家に誰かがいる。こんな美しい人がずっとそばにいてくれたら、そう考えていた。


「女神さまは湖からやってきて体が冷え切っています。目覚めるまで私がみています」

 

だが、神さまはいわれた。


「天の宮殿のほうが 女神のためにはきっとよいだろう」

 

彼は、その一言で自分の家のみすぼらしさを恥じた。そうか、こんな貧しい家よりも立派な神さまの宮殿のほうがずっといい。


「わかりました」と彼が返事をしようとした時だった。


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