第2話 絶対分かり合えない…!

第二話 


「______無理!!

俺あの人無理です、仲良くなれません!

なんなんすか、あのシオンって人!

そもそもコミュニケーション取ってすらくれませんし、何ですかあの態度!

こっちが仲良くしようとしても無視してくるじゃないですか!」



「まぁまぁまぁまぁ…優希くん、落ち着いて…?」


俺は紅さんに文句をつけた。


…というよりかは、我慢が限界であることを 伝えた叫んだ


彼女は俺と視線を交わさないように言う。


「シオン君もきっとまだ恥ずかしいのよ。

…まさか、ここまで仲良くしてくれないとは……さすがに思ってなかったけど」


「思ってなかったんじゃないですか」


この数日、シオンは生きる為に必要最低限のことしか行わなかった。


ご飯を食べて、ぼうっと突っ立って、寝て、起きて、ぼうっと突っ立って。


その間、彼の表情筋は一切の仕事を放棄していた。


つまり何を言いたいかというと……彼は、俺の人生15年の中で一番理解できない生態だいうことだ。


「どうするんですか、あれ!

酷い……あまりに酷い…」


「こっからゆっくり矯正していくしかないよねぇ……ということで」


彼女はパンっと両手をその胸の前で打つ。

やけに上手なウインクをし、小首を傾げた。


「宜しくね、優希くん」


「丸投げしないでください!?」


俺の嘆きに対し、紅さんがテヘッとした表情で舌を出す。


「そこ、なんで大声で陰口言ってるんだ」


凪さんが俺らに声をかけた。


思わず声量が上がっていたのか。


俺は恐る恐る凪さんの方を振り返る。


ゲンナリした表情の彼の横には、シオンが相変わらずの無表情で立っていた。


紅さんが口元を引き攣らせて尋ねる。


「…もしかしてだけど…聞こえてた?」


流石の彼女もバツが悪いのだろう。

声が少し震えていた。


しかし、凪さんは落ち着いて……はっきりと、頷く。


「あぁ。とな」


……まずい。


俺は上目遣いでシオンを伺う。


「あの…シオン、その…悪気は…」


彼は真一文字に結ばれた口を動かすことなく、スイ、と目を逸らした。


…多分怒ってるんだよ、な?


分かりにくいが、少なくとも目を逸らす程度には気を悪くしたようだ。


気まずくなった空気を破るように、凪さんの大きな溜息が鼓膜を揺らす。


「_____優希、シオン、ちょっと来い」


あ、これ叱られるやつだ。


俺はほぼ直感的に悟った。


凪さんは、目つきが悪い(自覚はあるらしい。だが直しようがないと当人が諦めている)。


そのせいなのだろうか。

彼が怒ると……普通に、めちゃくちゃ怖い。


重い足を引き摺るように、彼の前に出る。


しかし、その直後に彼が放った言葉は、俺の予想の斜め上をいった。


「お前ら、共同で任務行ってこい」


「_______え?」


俺は思わず聞き返す。


今、何て言いました?


共同で…だって?


共に同じと書く……あの、“共同”?


凪さんはそんな俺の胸中を察していないのか、淡々と続ける。


「シオンの住んでた島に、まだ夢喰いが残ってる可能性は高い。

だから、二人で倒してこい」


彼の言葉に、微かだが…シオンが肩を跳ねさせる。


……いや、流石にこの流れで“一緒に”とかおかしいだろ。


俺は彼に苦言を呈そうと口を開いたが、言葉が口に出る前に、小さな呟きがそれを遮った。


「一人で、いい」


比較的はっきりと、シオンが言う。


……彼のはじめての意思表示。

それは「拒絶」だった。


凪さんは彼の発言に一瞬目を見開いたが、気を取り直すように答える。


「…お前はまだ実戦に出てないだろ。

1人で行かせるわけにはいかない」


……正論だ。


シオンは唇を軽く噛んで俯く。


それ以上の反論はしないようだ。


しかし、彼が悔しさを滲ませるのを見るのもはじめてのことだった。


俺はすっ、と息を吸った。


肺にいっぱいの空気を吸い、それをはっきりと声にする。


「俺もごめんですよ」


自分の拳を握り込む。


…そう、ちゃんと言葉にしなきゃ。


「こんな奴と一緒に戦えるわけない。

仲間と分かりあおうとすらしない奴となんて、戦場に出たくもありませんから」


自分の言葉ながら酷い言いようだ、と思った。


でも、それくらい俺も心の底から怒っていたのだろう。


シオンがゆるゆると首を上げた。

昏い目が俺を見る。


しかし、俺は話を続ける。


「経験云々じゃなくて、強さでもなくて。

俺はこいつのそういうとこが無理なんです。

……任務なら俺1人で十分でしょ?

凪さん」


彼が、そっと眉を顰める。


「…だから、二人を分かち合いさせる為に共同にしたんだが?」


凪さんが即座に俺の言葉に返した。


「…っ」


彼の言葉は尤もだった。


…しかし、無理なものは無理。


俺はそっぽを向いた。


「正直、今のシオンじゃ無駄死にするかもしれない。

…俺だって…人が死ぬのを見るの、嫌です」


見たくないんだ、俺だって。


命が散るところを……人が、赫い華を散らせながら、呆気なく死ぬところを。


凪さんは、眉を下げた。


普段仏頂面であることが多い彼の顔に、懇願するような表情が浮かぶ。


「だから、優希にカバーを頼みたいんだ。

優希、どうか


珍しい……彼の、悲しげな表情。


普段表情に感情が出づらい彼の、普段しないような、“お願い”。


そんなのされたら……


「ぐ……ぅ…っ、わ…分かり、ました…」


…断れねぇじゃねえかよ…!



3話に続く。

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