第1話 最悪な出会い


「…はじめ、まして」


あまりに不機嫌そうな“はじめまして”。


それが少年の第一声だった。





桜庭見廻隊。

それは、夢喰いを狩って抹殺する為に作られた集団。



俺は、その桜庭見廻隊にて、竹花優希たけばな ゆうき」という偽名で夢喰い狩りをしている15歳の高校生だ。


その少年________シオン・アルストロメリアがこの隊にやって来たのは………俺が入隊してから数ヶ月経った、とある夏の日だった。


「んっと、え〜……シオン・アルストロメリアくんです」


あまりに寡黙な少年を見兼ねたのか、黒髪の女性が彼を名を紹介した。


彼女は鬼ヶ崎紅きがさき べに


____俺より四つ年上の19歳、夢喰い狩りの大先輩だ。


彼女こそ、シオンをこの隊に連れてきた張本人。


彼女曰く、シオンは沖合の島に住んでいたのだが…島の他の人を夢喰いに殺されてしまった、だそうだ。


「行き場がない子をほっとけるほど、私は上手くできてなくてね」


それが彼女の言い分だった。


彼は見上げるほど高身長で、金色の髪がふわふわとパーマになっている。

一見すれば、異国情緒漂う、御伽噺から抜け出してきたような少年だ。


……瞳だけを除けば。


空のような色をしている瞳は、どこか昏い闇で濁っていた。


何かを映すようで、何も映さない。

「死んだ魚の目」という言葉が似合ってしまう……そんな目だ。



紅さんに紹介されても、当のシオンは微動だにしない。


「……」


その顔には、我関せずとでも言いたげな無表情が宿っていた。


……沈黙。


皆どうするべきか分からず、既に周りには冷めた雰囲気が漂いはじめている。


……あぁ、もう。

これは俺が動くしかねぇのかよ。


その空気に耐えられず、俺はわざと音を立てて立ち上がった。


シオンの元に歩み寄り、笑いかける。


いつもより少し高めのテンションにて、彼に話しかけた。


「はじめまして、シオン。

俺は竹花優希。優希でいいからな」


不安にさせないように、控えめに手を差し出し、握手を求める。


……しかし、彼の反応は冷たかった。


彼の無感情な目に、多少の嫌悪感が混じる。


そして、ちらりと俺の顔を見たきり、スタスタとその場から離れていった。



…はぁ?



思わず出しそうになった声を抑える。


____今、俺話しかけたよな?


シオンは俺から距離を取ると、黙りこくって立ちすくむ。


「えっ…と……シ、オン…?」


「……」


…いや待て、いきなり無視かよ!?



そんな様子を見て、ソファーに腰掛けている少年が息を吐いた。


その手の甲にて、黒縁の眼鏡を軽く押し上げる。


「…シオン、と言ったか?

これから共同生活を営む仲なんだから、無視は良くない」


彼は仁科凪にしな なぎ、この隊の隊長だ。


軽く諌められたシオンは少しだけ会釈をしたが、黙ったままだ。


空気がピリピリし出しているのは明らかだった。


もう一人の隊員である少女___神奈月玲衣かんなづき れいがオロオロして彼に声をかける。


「えっと、えっと、し、シオンさん?

こ、これからよろしくお願いしますね」


しかし彼女の呼びかけも虚しく、シオンからは何の反応も見られない。



俺は苛立ちかけた呼吸を自分で抑える。


…大丈夫、きっとこれから仲良くなれるだろう。


そう、きっとそうだ。

感情表現が苦手なだけかもしれないし、緊張してるだけかもしれない。


これから彼と共同生活をすることになるんだし、見た目からして恐らく同い年。


きっとこれから分かり合えるんじゃ______



「________いや無理!!!!」


その数日後、ついに俺はぐうの音を上げた。


どれだけ俺が話しかけても、シオン・アルストロメリアはコミュニケーションすらとってくれなかった。


無視に次ぐ無視。

最近はついに視線すら交わしてもらえなくなった。


俺、ぜっっっったいこいつと分かり合えねえわ。



この数日の収穫はそれが分かった事だけだった。



2話に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る