望んだ未来じゃなくても、ぼくらは

灰月 薫

プロローグ 独りにしないで



「…独りにしないでよ」


ぼくの呟きは、誰にも届かなかった。


波打ち際、ぼくは砂浜に立ち尽くしている。


夕暮れの風に吹かれるがまま、ぼくは沖を見つめていた。


沖合に、ぽつんとひとつだけ島が浮かんでいる。

_______それは、ぼくが生まれ育った島だった。


つい先日まで、ぼくが幸せな日々を送っていた、その場所。


…そしてそれは、今は誰も「生きていない」島だった。




その島は、本島と関わりを深く持っていない場所だった。


自然豊かな、のんびりとした島。


島から一歩も外に出たことのないぼくは、島の外のことを何も知らなかった。




「あんな夢、見たくもなかった」





_____


この世は、ぼくの思っていたより何倍も残酷だった。


平穏だと思っていた世界は、ただ幸せな壁に囲まれた、狭い箱庭だった。



この世界に、“夢術むじゅつ”という超能力みたいなものが存在していたことも。


夢喰ゆめくい”という人の魂を喰らう怪物が存在していて、しかもそれが人「だった」ということも。


……ぼくが未来をる夢術を持っていたことも。


その全てを理解した時、もう全部手遅れだった。







______





「独りに、しないで」


ぼくの呟きを受け止めてくれる人は、もうどこにもいない。


だって______みんな…ぼくを置いていってしまったから。


日が沈むにつれ、潮風がぼくの背中を押して来た。


つられるようにして、ぼくの足は海に浸かる。


冷たさと心地悪さが、足の先からぼくの全てを壊していく。


それは這い上がってきて、脳を侵すように。

ぼくの中身を空っぽにするように。


……全部を、奪い去っていく。




「…あぁ……もう……いいか」


独りじゃなくなるなら、いっそこのまま_____



______チャプン。




「ねえ、そこの君。

そんな所にいたら、風邪ひくよ」


黒髪の女性がぼくの腕を掴んだのは、その時だった。




1話に続く。

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