六、怪異の真実
薄っすらと地面に積もる雪だが、先ほどまでと違い、その向かう先にはひとつの足跡もなかった。店主に借りた灯を
そして、しばらく歩いた先に、それらしき場所に辿り着いた。盛り上がった土に板が刺さっているだけの墓が不規則に並んでいて、その中でも新しい墓はひとつしかなかった。
灯りを地面に置き、
「これは、思っていた以上に深刻かもしれないな」
墓が掘り起こされていたり、死体が土から這い出てきた跡はなかったが、その代わりにあったモノ。
墓を囲むように血で描かれた禍々しい陣の跡。そしてその陣はすでに発動済みのようで、効果を失っていた。
「
しかも怨霊の憎悪を増幅させて操る厄介な陣であった。相手は死体ではなく霊体ということになる。怨霊は実体がないため、人の身体を引き千切ったりなどできない。
考えられることはひとつ。
「殺された四人は、自分で自分の身体を引き千切ったのか」
それはもちろん自分の意志ではない。怨霊に身体を乗っ取られ、人以上の力で自らの身体の一部を引き千切って、失血死したのだ。
「・・・ここにいた
行方不明になった挙句、首だけになってしまった男の死の真相を、殺された者たちは知っていた、もしくは関わっていたのかもしれない。
話を聞いただけでは怪異の仕業か、人の仕業かは解らない。その前後の関係が解らない事には。
「その恨みを晴らすために
怨霊になり
村は救えても、その魂は本当の意味で救えない。
「ふたりが亡くなった竹林に行って、霊視をしてみる。これほど強い恨みなら、まだ残っているかも」
「待て。今からという意味なら、悪いが止めさせてもらう」
「大丈夫だよ?」
そういう問題ではない、と
「それに、君がいる。だから、大丈夫」
掴んでいる手の上に冷たい手を重ねて、微笑を浮かべる。有無を言わせないその笑みが、
どうしてこうも無理をしたがるのか。いくら止めようと、その意志は揺るがない。
「今夜でこの儀式は終わらせる。でないと、もっと悲しいことになる」
「・・・君が背負う事か?」
この国で起こるすべての穢れを祓うために、
知ったつもりでいて、まだ知らないことがあるのだと、こういう時にふと思い知らされる。
「・・・・ここから歩いていては時間が足りない」
はあと嘆息して、了解も得ずに
冬の夜空はかなり寒かったが、
「ありがとう、
ぎゅっと身体ごと預けるように強く抱きついて、耳元で囁いた。最後のごめんね、の意味を
両手が塞がっているので、肩に埋められた顔を見ることもできなかった。
「・・・しっかりつかまって。このまま竹林の中に降りる」
うんと
足元は枯れた笹の葉が降り積もっているせいか、ふかふかとしていて危うい。
抱き上げていた身体をゆっくりと下ろして、しっかり足が付くまで腰に手を回したまま支える。
関係のない情報を省いて、必要な情報を視る。霊視は情報によって精神的に消耗する。特に怨念の霊視は邪に吞み込まれる危険もある。
(危なくなったら、すぐに止めさせる)
周りを警戒しながら、
少しして、眉が歪んで瞼が震え始める。光がくるくると素早く回り出し、次々に
しかしそのすぐ後に頬を汗が伝ったため、
はっと覚醒した途端、肩で息をして苦し気に心臓の辺りを握りしめる。落ち着くのを待って、
「・・・・平気か?」
「うん・・・それに、成果はあったよ、」
散っていく緑の光を見送って、まだ虚ろな瞳で答える。
「殺された者たちは、首だけになった男の死に関わっていた。女はそれを知ってしまい、男たちを殺すため
「そんなことをしても、望みは叶わないだろうな、」
「うん、でも彼女はそれを信じてる。
この村で本来の恨みが果たせても、男を取り戻すという彼女の望みは叶わない。だが彼女がそうだと信じている限り、次の場所でまた同じことをするだろう。
そうして怨念がどんどん強くなり、最終的には望みなど関係なく殺し始める。それが
「行こう、
「そんなに私を甘やかして。君は、私を怠惰な人間にするつもりなの?」
「冗談はいいから、さっさと終わらせて帰ろう」
そうだね、と小さく笑みを浮かべ、背伸びをして
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