第二話


「本当にあんたがやったんですか?接続が切れる前になんか言いかけてたでしょう。なんか外のSNSで注意喚起してる人が居て、箱型の迷惑アバター使ったやつがUDON毛刈りのワールドを壊したって言ってるから注意してみたいなのが流れてきましたから」


 豆腐が招待されたのは照明を落とした1DKのアパートで、六畳半ほどの狭い室内に待っていたニラヤマが先に口を開きました。


「……だとしたらどうする。我を通報してブロックするか?」


 ニラヤマは不貞腐れた豆腐にひとしきり笑った後、予想していたのとは違うことを言いました。


「その様子だと他の場所での“お告げ”とやらは失敗したみたいですね。別にいいんですよ、人気ワールドの一つがどうなったってさ。私にとって重要なのはUDON毛刈りに不具合が起こる前に、あんたがそれを予言したってことなんです」


 このワールドの製作者欄にはインスタンスの主と同じ、ニラヤマのIDが書いてありました。

 配置されたテーブルの上に転がったビールの空き缶だとか、食べかけのピザといった小物からは見ているだけで生活臭が漂ってきそうです。金属製の灰皿には吸い殻以外のものまで捨てられていて、つけっぱなしのテレビが室内の壁を画面の色に照らしています。

 

 さしずめ現実であれば部屋の主は怠惰でお金のない人間というところですが、こうしてVR-EDENのワールドとして存在しているということは、散らかった小物の3Dモデルもわざわざ自分でモデリングするか購入して、それらしく見えるよう律儀に景観を組み上げたということです。


「……薄暗くて散らかっておるな」


 感想に困った豆腐が呟くと、ニラヤマは「そうでしょう?」と何故か嬉しそうに頷きました。

 そうしてワールドの中に居ると、ニラヤマのアバターも現実のどこかで暮らしている実在の人間で、会ったことがないだけで本当にこういう部屋に住んでいるのではないか、という考えさえ浮かんできます。

「彼氏の部屋かもしれないですけどね、へっへ」とニラヤマが笑うと、わざわざEDENの中でまで見るまでもない、特徴がなくて地味だと思っていた普通の少女のアバターも、何かしらの理想を込めて作られたのかもしれないと豆腐は思います。


「――貴様の言う通りだった。我のお告げはこの世界の者たちにとって、ただ煩くて迷惑なだけのものであったようだ」


 豆腐がそう言ったのはニラヤマとの他愛のない会話で乱れた心が落ち着いて、先程のインスタンスで起こした失敗を落ち着いて考えられるようになったからでした。

 そして豆腐が全体公開インスタンスでの“お告げ”に失敗したこと、それが自らの『神の使者』として認められたい欲求のせいであったことを話す間、ニラヤマは時たま相槌を打つだけで口を挟まず聞いていました。


 けれど豆腐が自嘲するように「当たり前のことだったな、信ずる神がどれだけ素晴らしかろうと我自身の不出来とは関係ない。そして仮想現実という世界に来たところで、その欠陥から逃れられるわけではないのだと」と言った時、ニラヤマは「そうですね」と相槌を打ちながらも、豆腐の予想していた内容とは違うことを返します。


「今まで信じてきたこと、努力してきたことが誰かに認められないのは、悔しいですよね」

「……そうか、我は悔しい、のか」


 最初に会った時のつっけんどんさが嘘のような言葉に驚いている豆腐に、今度はニラヤマの方から問いを投げかけます。


「多分だけどお告げの場所はワールド一覧から、そのワールドで一番人数の多そうな全体公開の“インスタンス”を選んだんじゃないですか?そこで会話の輪を作っているのは派手な武器や翼だとかサイバーパンクな衣装、版権の怪しいアニメキャラや肌色面積が多い美少女のアバターがほとんどで、私やあんたみたいな姿をしたユーザーは居なかった」


 『インスタンス』とはEDENに存在するワールドを幾つも複製して、中に居るユーザーの間でだけ状態が同期されるようにしたものです。

 この複製されたワールドは混雑回避や通信量削減のために一時的に生成されるもので、内部の状態やユーザー情報が別のインスタンスと共有されることはありません。

 

 いわばバスケットをしたい全員が一つのコートで順番待ちをせずとも良いように、同じ形状をした別のバスケットコートを無限に用意することで、一緒に遊びたい人同士で集まりやすくするようなものです。

 

 豆腐は困惑しながらも、ニラヤマの言葉を肯定しました。


「……ああ、その通りだ」


 豆腐は今までのお告げの失敗で、アバターが箱型に固定されているということが、現実での容姿よりも大きな問題となることを思い知らされていました。

 誰でも好きな姿になることができるということは、その姿になることで自分の好きなものや何がしたいかを表明しているということでもあります。


 そして出会った当初ニラヤマが言った通り、人為の3Dモデリングによって成り立つ世界の中で、立方体とは『手抜きの産物』でしかないのです。


「自分が属している信仰や価値観の中で素晴らしいとされているものをVRの世界に押し付けて拒絶された、あんたは“お山の大将”だったというわけだ」

「ッ、貴様……」

ニラヤマは豆腐の怒りの声に被せるように「そしてVR-EDENに生きる、あなたを拒絶した人たちもです」と続けます。


「全体公開に馴染んでいるユーザー達だって、そしてVR-EDENに居る全てのユーザーだって同じで、それぞれの閉じた価値観で“お山の大将”をやっている。それを助長しているのが、この『インスタンス』という仕組みなんです」


 ニラヤマは何かを言葉にするのが上手だと、豆腐は思いました。


 だからこそ「何故、貴様はそれを憎む?お前のように会話の得意なユーザーであれば、全体公開インスタンスで初対面の相手と親しくなることなど造作もないだろう」と聞かずに居られませんでした。


「私は一年ほど前にこのVR-EDENという世界に訪れて、あなたと同じく全体公開インスタンスに行きました。そこで運良く古参のユーザーに初心者案内をしてもらったんですけれど、当時その人が入り浸っていたコミュニティは会員制で入会試験を設けていたんです」


 ニラヤマ曰く、その古参ユーザーが参加した頃にはフレンド伝いに参加できたらしいコミュニティは、イベント開催を重ねて参加者数がインスタンスの人数上限に近付いてくるにつれ、半年に一度のSNSアカウントとVRコンテンツを提出する『試験』でのみ、決まった人数枠のユーザーを取り入れる会員制に移行したそうです。


 それはコミュニティの方向性を理解していないユーザーの氾濫を懸念してのことで、コミュニティの主と友人になることを『会員』の条件にして友人限定や招待限定を使えば、会員制コミュニティを作ることは難しくないのだとニラヤマは言いました。そして、ニラヤマがそれを憎むのは、ぞっとするほど簡単な理由でした。


「この『アパートの一室』はワールド製作部門の『試験』に提出して、不合格を与えられたものです。当時の私はゲーム制作ソフトやVRコンテンツに繋がる知識を持っていなかったので、選ばれなかったのも当然といえば当然のことではあるんでしょうけどね。ただ自らの魂と同義に近いこの景色に、特定の尺度において価値がないというレッテルを貼られたことに変わりはありませんから」


 その言葉を聞いた時に豆腐は、先程のお告げに失敗したことや直前にあった同窓会の電話のことだけでなく、もっと昔の不登校だった学生時代のことも思い出していました。

 アキラは家にまで宿題を持ってきたり、辛うじて登校した保健室や部室で話をする唯一の同級生に頼まれて、教室で授業を受けるという『普通の学校生活』を送ろうとしたことが一度だけありました。

 そして急に教室に現れた自分に皆が注目しているという恐怖でパニックを起こして倒れ、その日から卒業まで一度も学校に行くことはありませんでした。そして後から同級生が自分に授業を受けることを誘った、本当の理由について考えたのです。


 それは『社会復帰を助けたい』といった親切心ではなく、既に創作分野に可能性を見い出して学校以外の場所に世界を広げつつあった自分と、同級生は自分が生かされ抜け出すことのできない『学校』という場所でしか会わないつもりなのだと。

 自分の得意分野でしか意思のやり取りを行うつもりがなく、その分野に踏み込んでこない相手を『不良』や『社会不適合者』と彼らの価値観の言葉で否定して、そうして彼らの自尊心を保つための行為だったのだと、アキラは彼らを憎んでいました。


「ねえ豆腐、私はあなたが自分の姿や言うことを肯定してくれる人と出会わなくて、心の底から良かったと思っているんです」


 豆腐の考えを打ち切ったのは、ニラヤマの呟きでした。


「ふん、そんなものがあると思うのか?」

「このEDENという世界では、箱型アバターを好んで使用する人も居ます。まだ人が少なかった頃なら、会うことも簡単だったはずですよ」と矛盾するようなことを答えてから、ニラヤマは続けます。


「まあ、そういう人にあなたが幸運にも出会えたとしましょう。その人が一人きりではなく同好の士をフレンドとして持っていて、その大多数がお仲間のインスタンスに参加できると考えてください。

あなたは、あなたの姿を肯定してくれる人の限りなく少ない全体公開と、あなたを否定する人が居ないと分かっている友人限定、どっちに行きますか?だから、あなたは彼らと出会えなかったんです」


 豆腐はそれを聞いて、ニラヤマの言葉が何も矛盾していないのだと理解します。豆腐はニラヤマのことを多少は知っていて、ニラヤマも豆腐のことを知っているから、踏み入った話ができています。それでもニラヤマと豆腐くらい好みや考え方が違えば、毎回顔を合わせたいと思わないかもしれません。

 ですが、もし肯定し合える在り様の人々だけで集まることができるとしたら、それを差し置いて新規ユーザーの居る全体公開インスタンスに出ることは無いのです。


「今私たちが居る場所は招待限定インバイトって言って、インスタンス主わたしの招待がなければ入れない。そしてVR-EDENユーザーのほとんどは、インスタンス主のフレンドだけが参加できる友人限定フレオンインスタンスで過ごしているんです。

そこは誰ともフレンドになれない問題のあるユーザーは入ってこられず、誰かの知り合いしか居ないから安心して集まれるんです。だけど後からEDENを始めたユーザーに、友人限定から出てこない彼らと会ってフレンドになる機会は訪れない」


 VR-EDENには“インスタンス”という名のバスケットコートしか存在しない。

 それは同じ場所に集まって別々のことをしているのが当たり前の、現実の世界とは決定的に違う部分だとニラヤマは言いました。


 自分の居るバスケットコートが本当に自分のやりたいゲームをやっているとは限らないのに、隣のバスケットコートの様子を眺めることすらできない。

 複製されたバスケットコートは同じ構造をしていて、けれど決して越えることのできない『インスタンスの壁』に隔てられている。


 既存ユーザーのVR-EDENはこんなに楽しい場所だという言葉を聞いて、新しいユーザーが訪れる。だけど、その“楽しいこと”は彼らの行くことができない、古参ユーザーばかりの友人限定フレオンインスタンスに独占されているのだと。


 そして一見開かれた場所に見える全体公開パブリックも、それぞれのインスタンスに居るフレンドに参加して来たユーザーや、それぞれの集会場ワールドごとの常連といった集まりが作られていて、その明文化されていない流儀に反したものは豆腐のように排斥されるのです。


「現実に居場所が無かった人ほど、そういう場所を自分の理想郷だと考える。だけど、その世界もやはり、誰かを仲間外れにすることで創られている。そこで幸せに生きれる人ばかりなら構わないけれど、先に居る人が勝手に決めた曖昧な基準を満たせないというだけで、この世界に存在することさえ許されないように感じて、私はそれを悔しいと思った経験があるんです」


 その発言や感情の苛烈さにも関わらずニラヤマを怖いと感じなかったのは、豆腐と必ず彼我の距離を保ちながら話していたからでした。それはVRという互いに物理的な干渉を行えない場であることに加えて、ニラヤマの決して相対した相手の内面を決めつけることのない話し方にも起因していると豆腐は感じます。


 そしてニラヤマの『話させ上手』さに中てられた豆腐は、いやアキラはUDON毛刈りに起こった不具合を『神の使者である自らの権能』と偽って、お告げを行ってしまった切っ掛けである先程の電話のことを、自分が現実では元不登校の人間であることも含めて、幾分ぼかしてですが話してしまいます。


「――学校という閉じた価値観に、適応できなかったんですね」


 少し考える間を置いてニラヤマの返した言葉の簡潔さに、豆腐は不思議と心安らぐような気がします。それは自分の言葉をきちんと聞いていながら、それを通して自分という存在を都合の良い解釈に決めつけたり、相手の生きている価値観の中に当て嵌めようとしていないことが分かるからでした。

 だから、このニラヤマという相手になら、カバーストーリーではない『正式サービスに際してEDENを一掃する』という本当の預言を明かしても、それを止めるべく協力してくれるかもしれないと豆腐は考えてしまったのです。その信頼こそが、ニラヤマが豆腐をこのワールドに呼び寄せた目的であるとも知らぬままに。


「時代が進むにつれて我の采配を受け容れられぬ人間が増えてきたので、我はこれまで災害や奇跡といった『偶然の産物』という形でしか世界に干渉することができなかった。だがVR-EDENで人々の祈りを『ユーザーからの要望』という形で聞き届け、我は『運営』という立場から『不具合の修正や仕様変更』として隠すことなく介入を行うことができるのだ」


 それはほんの一日前のこと、豆腐という『神の使者』の口調の元になった“お告げ”の主は等軸アキラにこんな事情を告げたのです。

 神の存在を信じていない大多数のユーザーに対しても、有能な『運営』としてならば彼らの生きる世界に干渉しても混乱を引き起こさない、という理屈はお告げを受けた人間であるアキラにとっても納得が行くものでした。


「しかし『運営』の立場からでも解決することのできない、過剰なものを一掃するために『正式サービスの開始』という名目が必要になった。

 そして過剰だが悪徳ではないものが完全には失われぬよう、ユーザーに備えさせるため『律法体』という特別なアカウントを用意した」


 既得権益と内輪の繋がりでEDENが新たなユーザーの立ち入れない場所になることを、神である運営は懸念したのだと豆腐は話します。

 まだEDENに訪れたことのないが興味を持っている敬虔な人間に『正式サービスに際して互換性が一部失われる』というカバーストーリーを伝え広めるように、特別な権限を持つ『律法体』という名のアカウントを与えたのだと。

 

 ニラヤマは自分が『豆腐』と呼んでいたものの正体を聞いて、実際にEDENについて何も知らなさそうな豆腐の口から荒唐無稽でも矛盾がない説明が出てくることに、ぞっとしました。


「――ええっと、あんたが折良くEDENに来ようとしていたから、その問題を解決させる臨時バイトエージェントとして雇ったってことですか?」

「まだEDENという地の常識に染まり切っていない敬虔な信徒である、我のような存在がVRの世界に興味を持って訪れることを待っておられたのだろう」


 その言葉とは裏腹に、豆腐の声には不安と重圧が滲んでいました。だからこそ自分はこの使命を成し遂げなければならないのだと。もし自分が使命を果たさなければ、どうなってしまうのだろうと考える豆腐に、ニラヤマは言いました。


「私はそう思いませんけどね。その話がもし本当だとするならですけど、運営はあんたが失敗すると分かっていて――つまり、やる気はあるけどEDENについての知識がない人間に“お告げ”を失敗してもらうために、あんたを派遣したんじゃないですか?」

「……どういうことだ?」


 窓から差し込む月明かりディレクショナルライトに照らされて、ニラヤマの横顔が青白く浮かび上がっています。


「さっきUDON毛刈りのワールドに居た時に、考えたことなんですけどね」豆腐が問うのを待っていたように、ニラヤマは話を始めます。豆腐はそれをVR機器のスピーカーから、他に誰も居ないアパートの一室で聞きました。


「友人限定に行けないのも全体公開で受け入れられないのも、彼らの行動に起因しているわけじゃないですか。それで“お告げ”が伝えられなくて正式サービスに置いて行かれたとして、閉鎖的なコミュニティで『お山の大将』をしていた彼らの自業自得でしょう。そして彼らが一掃された後に文句を言えないように、あんたが送り込まれたんじゃないですか?」

 

 敢えて頼るもののない旅人の振りをして善悪を見定めるなんて、神様が幾度となくやってきたことですからねと、ニラヤマはまるで豆腐がここに来るまでに犯した過ちを見てきたように語ります。


 神への信仰なんてものが薄れた現代の人間たちも、自分の祈りを聞き届けて『奇跡』が起こることを願っているとニラヤマは言います。

 それが現実では『偶然の産物』である災害、もしくはVREDENの運営による正式サービスの開始という『仕方のないもの』の姿を取っているのは、嫌いなものが滅びた時に罪悪感なく「ざまあみろ」と思うことができるからではないのかと。


「それは神ではなく災厄を信じているのだ。自分たちに利益を与えて気に入らないものを滅ぼしてくれる、都合のいい奇跡を信じているに過ぎないではないか」

「だから、そう言ってるんですよ。外にも神様という名前が通じるのは信仰の内容ではなく、それが大きな権能を持って世界に干渉したという逸話が知れ渡っているからでしょう?奇跡や災厄、そして『運営の裁量』といった具体的な権威があれば尺度の通じない相手も納得せざるを得ない、どちらに転んでも運営は困らないって話です」


 考えてもみてください、とニラヤマは言いました。ただシステムの移行に対応を求めるだけなら運営の名義で行えば良いことで、そうでなくともVRSNSに初めて訪れる一人のユーザーに大役を担わせるわけがないでしょう、つまりEDENのユーザーが聞く耳を持たないのも考慮の内であるなら、豆腐が重圧を感じる必要はないのだと。


 ニラヤマが語ったのはVRSNSの知識だけでなく、少なくとも聖書を読んだことのある人間にしか分からない言葉です。だから豆腐もニラヤマが出まかせを言っているのではなく、そして信徒としての使命感だけが自分の動機なら諦めてしまっていたかもしれないと考えます。

 豆腐は確かに、運営から「外から訪れた者としてEDENが悪だと判断したなら、全てを見捨てても構わない」と事前に言われていたのですから。


「――手を貸せ、そう、伸ばすだけで良い」


 豆腐の姿はアバター読み込み中に表示される青白い結晶に変化して、その輝きにアパートの内装とニラヤマの顔がぼんやりと照らし出されます。ニラヤマが吸い込まれるように結晶の表面を触れると、その手に何故か“UDON毛刈り”の毛刈り器が握られていました。

ニラヤマが「ねえ豆腐、これってどうやって消すんですか?」と言いながらテーブルに棒を触れさせた時、突如としてテーブルがUDON毛刈りの羊と同じような虹色に輝き始めます。

「これ、虹色の羊毛のマテリアルだ」と驚くニラヤマに豆腐は説明しました。


「我がユーザーとの契約を求める理由は、不平不満について調査するためだけではない。ここで暮らすユーザーの、この世界の事象や摂理に抱いた強い感情に共鳴することで、我一人では不可能な形での“しるし”が行使されるのだ」

「ふーん?不平不満や不具合について運営が直接介入するだけじゃなくて、権限を貸したユーザーの間でも解決してもらおうってことですね」


 感心したように毛刈り器を掲げているニラヤマに、豆腐は意を決して『律法体』と呼ばれるアカウントの最たる権能は、他のユーザーに権限を分け与えることであることを明かします。

 それはニラヤマ以上に自分を信じて自分が信頼できる相手が今後現れるとは思えないから、自分が歩み寄れる限りを尽くしてニラヤマの判断に委ねるという印だと。


「我と契約した者に与えられる『契約の箱』は、正式サービスに向けたβテスト版としての機能だ。この中でより有効に活用され、支持する者が多かった機能は正式サービス開始後に全てのユーザーが使えるようになる。

 その『契約の箱』の持ち主にはVR-EDENにおいて実現できる範疇で願いが一つだけ叶えられる。つまり目の前の問題を解決させるためだけでなく、新機能の追加という方法でEDENを変えていくための実験でもあるのだ」

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