閑話6-3

「珍しく好戦的だな?」

この男は基本的には温和な解決法を提案するはず


「この5年の恨みを晴らさせていただこうかと。それに母君は我々にとっても大切な方です」

精鋭と呼ばれる彼らが3人がかりで5年

それも俺個人の希望で動いてくれていたのだ


「ご自身で何かされたければここにお連れしますが」

「いや、それは望んでない」

俺自身は真相を突き止めて社会的に罰したかっただけだ

でも内容を見る限り闇で動かざるを得ないものだった

だとすれば彼らに任せる方がいいだろうと思ったに過ぎない


「後始末はいかがしますか?」

「この手紙の送り主の寝室に転がしておいてくれ。この手紙を添えてな。俺が絡んでいることくらいは察するだろう」

「いつでも息の根を止めることが出来る、ということくらいはすぐに察して欲しいものですね。復讐の矛先がすぐに自らに向くのを恐れて、領主交代くらいはすぐに実行するかもしれませんね」

取り出したものを封筒に戻し彼に返すとニヤリと笑って受け取った

俺ですら滅多に見ることのない黒い笑みにこの先の出来事を想像するのは容易い


「これは餞別だ」

インベントリから取り出したのは1つの腕輪だ


「ありがたいですね。魔術師をその力を封じて甚振れるとは」

嬉々として受け取るあたり相当鬱憤が溜まっていたのだろう


「それと…個人的なことに長い間関わらせた礼だ」

「よろしいので?あなたからホールのケーキなど初めてでは?しかもこれは先日の果物を使ったものですよね?」

「フルーツタルトだ。俺にも感謝の気持ちくらいある」

「なるほど。では3人で楽しませていただきます」

彼はタルトを受け取ると、次の瞬間姿を消していた


俺はソファに身を沈め大きく息を吐きだした

「やっとだな…」

真相を知るための5年

オリビエに出会うまでそのためだけに生きていたともいえる


「まだ5歳だったのにな…」

今のロベリと同じ年でこの世を去った双子の弟の事を思うとやり切れない

何より悔やまれるのは、自分の家族の命を奪った人間の命を、自らの手で救ったという事実だった


「簡単には殺さない。生きて苦しみ続ければいい」

どす黒い感情が自分を支配しているのが分かった

溢れてくる殺気を必死で抑え、なんとか自分の気持ちを落ち着けてからカフェに戻った


「お帰りロキ。お昼どうする?」

「…創作」

「了解」

オリビエはいつものように笑顔で頷いて準備をしてくれる

この先何があってもこの笑顔を守っていきたいと心からそう思った



「ロキ」

呼び止められたのは部屋に向かう階段を上がり切った場所だった


「お昼前に何があったのか知らないけど…無理に笑わなくても大丈夫だよ?」

「え…?」

「内容は言えないけどイヤなことがあったんだって、それだけで納得してくれる人しかここにはいないから」

「…」

「そんな風に無理して笑ってたらロキが壊れちゃうよ?だから、明日からは無理しないでね。おやすみ」

オリビエはそう言って自分の部屋に入って行った

まさか気づかれているとは思いもしなかった

でも気づかれたことを嫌だとは思わなかった

それだけ俺を気にかけてくれているということだから


「これは…?」

部屋に入るとソファーテーブルの上に何かが置かれていた

それを手に取り思わず笑う

そこにあったのは1枚の写真

そこに映っていたのは寝室の床に転がされたシギュの額に貼られた封筒を見て驚愕の表情を浮かべる男の姿

しかもその封筒にはメモが貼られている

“次はお前だ”

そこにはたった一言そう書かれていた

殺すとも痛めつけるとも書かれていない

いつその『次』が来るかも、何が起こるかもその時にならないとわからない

その恐怖はいかほどのものか

そう考えると沸き上がる殺気が少し和らぐ気がした

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