閑話6-2

本の中に隠すように挟まれていたそのメモを見つけたのは偶然だった


シギュ・ジョンチアンは王が抱える魔術師の名

家族は単なる事故ではなく殺されたのだと確信した

父がそんな情報を掴んでいたということは母の死にも何かあらぬ力が働いたのかもしれない

母の死因は病死だと聞かされていた

いや、病死としか聞かされていなかったのだとその時初めて気づいた

数日前まで元気だった母の急死だったのに…


あれから5年ずっとその証拠を探してきたのだ

シギュ・ジョンチアンの近辺もその親族の近辺も含めて情報を集めた

王の側近である立場を利用して王宮内もくまなく探った

でも確たる証拠はこれまで手に入れることが出来なかったのだ

その証拠が揃ったのかと思えば、落ち着くのが難しいのも仕方がないことだと思えた


「腹減ったー」

飛び込んで来たその声に立ち上がる


「ダビア、ちょっと頼むな」

「了解」

昼を食べに来たダビアにここを頼むと俺は自分の部屋に駆け込んだ


「こちらを」

既に部屋の中にいた男に手紙を渡された


“シギュ・ジョンチアン”

表にそう書かれていた

裏を見ても署名はない

でもそこに押された蝋封はこの国でただ一人しか使うことのできないものだった

俺はしばらくその蝋封をじっと見た後、中の物を取り出した


出てきたのは便箋1枚と地図のようなもの


“今日をもってトゥルネソル一家はこの世の最後を迎えることになるだろう

俺を拒んだ最初の妻同様、従わない者に用はない

この世を去ったことの確認を怠るな

御者の始末はそなたに任せる

もしこのことが明るみになればそなたの一族が同じ道をたどるだろう“


怒りに震える手で便箋をめくると赤く大きなバツ印の付いた簡易地図が目に飛び込んでくる

そのバツ印の場所こそ家族が命を落とした場所だった


「やはり母さんも…」

「まさか自らそのことを明かすとは予想外でしたが…その件だけは我らが王にも伝えさせていただきます」

「あぁ。当然の権利だ。その件の判断はそっちに任せるよ」

探っていた2件の決定的な証拠が同時に手に入ったのは僥倖

でも、だからと言って亡くなった大切な命が戻ることは無い


「どこにあった?」

「手帳の表紙になっていました」

「は?」

「親族に囲う職人がいるので特注でしょう。手紙を芯材として通常の手帳に仕立てられていました」

厚みも通常の芯材とほぼ同じ

毎年、手帳自体は何度も確認した

カバーを外したり中の文字までくまなく見ていた

でも芯材として違和感さえ感じることは無かったのだ


「正直、見事としか言いようがありません」

「だろうな。お前たちが3人がかりで5年…まさか…」

こんなところに

その言葉は声にはならなかった


「とにかく証拠は揃いました。あとはどうなさいますか?」

「…復讐を」

自分から出た恨みの籠った低い声を、どこか遠くから聞いているような錯覚に陥る


「殺りますか?」

「いや。あの世に送ったところで喜ぶのはオナグルだけだ。それにここの領主交代の件もある」

「では、殺してくれと懇願する程度に甚振ってよろしいですか?」

その声には殺気がこもっていた



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る