98-2
「ジルコット殿」
フロックスは扉を開けるなりテーブル席に座っているジルコットに笑みを向ける
「ご無沙汰しております。フロックス殿」
「あぁ。敬称は不要です。今ではただの冒険者ですからね」
「あなたが冒険者とは…もっとも私も今では流れの医師とはいえ亡命者でしかないので敬称は不要ですよ。フロックス」
皆敬称付きの呼び名は好まないらしい
確かにこんな町で敬称付きで会話されたら目立って仕方ないけどね
「あれからジルコットはどうしてたんです?カクテュスの知り合いを訪ねるとおっしゃってましたが?」
「ああ。古い友人を訪ねてたんだが…」
言葉を濁しうつむく姿に何となく想像できてしまう
「どうやら3年ほど前にこの世から旅立っていたようだ」
やっぱり…
「奴とは同郷でな、同じ時期に医師を目指すことを決めて共に歩んできた。ただ…元々体が丈夫な奴ではなかったんだ」
「では病で?」
「そうらしい。苦しんだ期間は短かったというから、それが救いだな。今は息子が後を継いで治療院をしておった」
そう話す顔は穏やかだった
「1か月程その診療所で共に働かせてもらった。奴の話をしながら中々楽しい時間だったよ」
「引き留められなかったのか?」
「そんな大きな治療院じゃないからな。互いに技術と情報の交換だけしたら充分だ」
亡き友の話をできたからそれでいいのだというジルコットはとても穏やかな顔をしていた
「ではこれからどうするつもりで?」
ロキとフロックスの質問攻めにあってるような感じがする
医局長という彼に2人共お世話になってたのかな?
「まだ決めてはいないんだ。医師であり続けたいとは思ってるが…」
「国につく気はないと」
「まぁ、そうだな。騎士達の力になれるのは誇りに思えた。だがもっと救えた命が沢山あったのもまた事実」
「どういうこと?」
どこか矛盾したような言葉が引っかかる
「…ナルシスは医局長をはじめとした腕のいい医師を城に囲い込んでいたからな」
「それってつまり…?」
「巡回先に治療に行っても騎士しか治療することを許されなかったってことだ」
「騎士しか?」
「すぐ隣に騎士よりも重症の称号なしの町の者がいても、そっちの治療はさせてもらえない」
「何それ…」
フロックスとロキの説明に絶句する
「治療すれば命を繋ぎとめることが出来たはずなのに、見殺しにするしか出来ない。あんな思いをするのはもうたくさんだ」
医師という道を選んだのは少しでもたくさんの人を助けたかったから
自分たちを守ってくれる騎士を助けることが出来るのは誇りに思う
でもその騎士が守っている弱きものを見殺しにするという矛盾
助けたい命を前に国も、権力も、職も、自分にとっては意味のないものなのにとジルコットは言う
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