98.訪問者

98-1

「いらっしゃいませー」

ランチタイムが落ち着いた頃合いで扉が開いた

入ってきたのは1人の年配の男性

彼は店内を見回したもののその場から動こうとしなかった


「お好きな席にどうぞ」

「あ、いや、失礼…つかぬことをお尋ねしますが、こちらにフロックス・グリシーヌという方がおられるとお聞きして来たのですが」

「フロックス、ですか?」

知り合いかしらと首を傾げながらロキを見る


「あぁ、医局長か」

伺う様に男性を見たロキがそう口にした


「な…クロキュス様…?!」

ロキは驚愕の表情を浮かべた彼に苦笑する


「もう様は不要ですよ。ジルコット殿」

「あ、いや…確かにそうですな。既にあの国は亡びたに等しい今、あの国の全てに意味はない。では私の事も殿は不要です」

ソンシティヴュが関係なくてもカクテュスの王族だけど…

まぁロキにとっては気にするポイントでもないんだろうけどね


「承知した。あぁ、紹介しますよ。俺の嫁でオリビエ」

「初めまして」

「こちらこそ初めましてですな。ジルコット・チャーム、ソンシティヴュでは医局長をしておりました」

「まぁ、では例の感染症の際にフロックスに協力いただいた方?」

「おや、そこまでご存知で?」

ジルコットは驚いたように言う


「ここは田舎なので話題が少ないんですよ。どうぞ中へ」

このまま入り口で話し続けるわけにもいかないのでテーブル席に案内した


「ロキ、フロックス呼んでくるからお相手お願いね」

「悪いな」

「気にしないで」

私はそう言ってジルコットに会釈してから屋敷の方に向かう

今日はサロンで本を読むって言ってたはず…

今朝聞いた予定を思い出して真っ先にサロンを確認した


「よかった」

「え?」

フロックスは驚いた顔を向けて来る


「フロックスにお客様が来てるの」

「客?俺に?」

心当たりがないんだが、とでも言うように首を傾げる


「ジルコット・チャーム」

「おぉ…医局長か」

「その様子だと約束してたの?」

「いや、約束って程のものでは無いんだけどな。王宮で別れる時に落ち着いたら顔を出してくれと言ってあった」

「そうだったんだ。今カフェでロキが相手してるんだけど来れそう?」

「ああ。行くよ」

フロックスは本をしまって立ち上がる


「確か称号なしの方なんだよね?」

「ああ。王宮を出る時はカクテュスの知り合いを訪ねると言ってたはずだ」

「気さくな方だよね?」

医局長というイメージが自分の中の物と一致しない

どちらかと言えば堅苦しい、気難しいイメージしかもっていなかったから


「そうだな。ある意味貴重だと思うよ」

「え?」

「ソンシティヴュで王宮の医局長だからな。本来なら称号持ちが付く役職」

「確かに…そういう意味ではよく医局長になれたね?」

その立場にいるだけでも風当たりは強そうだけど…


「腕は確かだからな。王族特有の病を初見で見抜いたと聞いてる」

「王族特有…そういうのあるんだね~」

別世界の話だとしか思えない…って実際私にとってここは別世界なんだけど

そんな話をしている間にカフェに着いた

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