91.男達は…(side:ソンシティヴュ)

91

「お前たちはこっちだ」

建物から出ると荷馬車に誘導される


「説明は馬車で移動中にする。とにかく順に乗れ」

「何で俺がこんなボロイ馬車に…」

「もっといい馬車に乗せろ!」

「お前たちにそんな権利はない」

「何だと?」

「称号持ちは過去の栄光だ。ソンシティヴュが事実上崩壊した今称号などゴミも同然だと言っている」

「ふざけるな!俺は…!」

“バキ…”

掴みかかった男は面白いほど簡単に殴り倒された


「うぅ…」

地面にうずくまりながらもにらみ返す


「逆らえば容赦なく潰す。お前たちがこれまで使用人にしてきたようにな」

ニタリと笑いながら言う騎士に男たちは後ずさる


「イヤならとっとと馬車に乗れ」

荷馬車の荷台に押し込められて男たちはただ項垂れる

先ほどの一撃を見て逆らうという選択肢を持つ気概のある者はいない


「お前達にはこれから道の整備をしてもらう」

「道の…整備?」

「そうだ。心配するな簡単な仕事だ。ただし体力は必要だがな」

その言葉に男たちの顔には不安しか浮かばない


「寝る場所は用意してやる。作業着と食事もだ。ただし洗濯は自分でしろ」

「洗濯など使用人の仕事じゃないか…」

「その使用人に見捨てられたんだろうが。それに罰を与える人間に使用人を用意する馬鹿がいるとでも思うのか?」

「ぐ…」

歯向かおうとした男は一瞬、未だにうずくまっている男を見て言葉を飲み込んだ


「怠けていると判断した時点でし尿処理の仕事に回す。それが嫌ならしっかり働け」

「それは罪人の仕事ではないか」

「3国からすればお前らも罪人だが?」

「我々は何も…」

「そう、何もしていない。だ。守るべき民を奴隷の様に扱い守らなかった。止めるべき当主を止めなかった。国の未来を自分事として考えなかった。その結果が今だろう?」

「…」

「どのような反論をしようが、戯言や妄想をどれだけ吐こうがそれが全てだ。お前たちの誇りに思っていた国は機能しなくなり、民を苦しめてまでため込んだ資産も財産もゴミ同然となった。残ったのは自分では何もできない役立たずなお前達ってわけだ」

騎士の言葉に怒りを見せるも怖れから反論は出来ない


「フジェにはカクテュスの王族が3人滞在している。知らなかったなど言い訳にもならん。お前たちの当主は我が国に喧嘩を売ったということだ。命があるだけありがたいと思うんだな」

これ以上は何も言うつもりはないという様に騎士は御者席に移動した


「こんなこと許せん」

一人が呟いた


「罰など受ける謂れはない。私は従う意思は…ぐ…ぅあぁぁぁぁ!!」

そう言って荷馬車から逃げ出そうとした瞬間悲鳴を上げてのたうち回る


「一体何が…」

「おい、大丈夫か?」

側にいた男たちが声をかけるも白目を剥いて意識を失った


「馬鹿が逃走しようとしたか?許可なく荷台から降りようとすればそうなるからやめた方がいいぞ」

御者席から嘲笑を含んだ言葉が飛んでくる

少し考えればわかる事だったはずなのだ

戦闘・魔術に秀でた国の騎士があえて見張りをせずに御者席に座るのはなぜなのか

それは見張りなどということに…


その後男たちは何も言葉を交わさなかった

これまでのような小細工も企みも通用しないと本能で理解したのだ

そして同時に、称号が過去の栄光だと初めて理解した瞬間だったのかもしれない

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