76-2

「どういうこと?」

「歌姫がここに向かってると…着いたら丁重にもてなせと…ハッ!」

もてなさなければと思い至り目を見開いた


「少しお待ちください」

門番はそう言って走って行った

その少し後、年配の女性を連れて戻ってきた


「歌姫が来られたと…?」

「ええ。私がそうです」

私はその女性にステータスを開示した


「おぉ…本当に歌姫が…本当にこの町に望んでこられたと?」

「ええ。勿論」

「失礼ですが…この町がどのような町か本当にご存知で?」

「そうね。一妻多夫の町。沢山の夫を持つのが義務なんでしょう?」

「あなたは本当にそれを望むと?」

「そうよ。だから来たんだもの」

即答する私に2人は顔を見合わせた

一体なんだって言うの?


「…わかりました。歌姫、あなたを歓迎します」

「ありがとう」

開けられた門を通り抜けて私は町を見渡した

門の外の鬱蒼とした雰囲気は全くない

広大な敷地の中にかなり距離を開けて家が建っているのが見て取れた

敷地の境と思われる場所に植えられた木は柵の役割を果たしているかしらね


「思ってたより素敵な町ね」

「そう言っていただけると嬉しいわ。あなたの住まいは…」

「東の角に空いてる家が」

「そうだったわね。どうぞこちらへ」

女性に案内されたのは青いドアの付いた大きな1軒家だった


「ここに住んでいいの?」

「ええ。ここの主人はあなたです。婚姻はこの書面を提出すれば成立します」

中に踏み入れてすぐ、ドアの側に置かれた台に同じ内容の書面が数十枚とペンらしきものが置かれている

「随分簡単なのね」

「はい。ここの規則は多くは有りません。男性側の重婚の禁止、女性は基本的に家から出ない、家に入れる男性はその家の主と婚姻した者のみ。それくらいです」

「家から出ずにどうやって知り合うの?」

「窓から声を掛ければ十分です。玄関口で互いにこの書面にサインし、男性が提出してくれば自由に出入りできます」

女性は淡々と説明を続ける


「婚姻が成立した男性にはそれぞれのドアの色と同じブレスレットを配られます」

そう言うと門番の男が自分の手首に着けたブレスレットを見せてくる


「ブレスレットをしている男性は婚姻済みです。あなたが婚姻することも、誘うこともできません」

「了解。ブレスレットしてない男を家の中から誘えばいいってことね?」

「その通りです。家事などは全て男性が担います。この町の女性の唯一の役割は男性と…」

「男と寝るのだけが仕事って最高だわ」

あけすけなく言い放たれた言葉に女性はあっけにとられた


「歌姫が本当にこの町での生活を望んでいるのは分かりました。私はこの町の領主でリシリア。何かあれば男性に呼びに来させてくれれば駆けつけるわ」

「分かったわ。ありがとう」

「それじゃぁ、この町をどうか楽しんで」

リシリアは暫く私のこれまでの事を確認してから帰って行った

家の外で待っていた門番も深く頭を下げてから門の方に戻っていく

私はその日のうちに5人の夫を迎え町での生活を楽しみ始めた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る