73.感染症(side:王宮)

73-1

王宮が騒がしくなったのはそれから2時間ほどしてからだった

「フロックスさん!医局長から応援要請です」

ナルシスの執務室に騎士が飛び込んで来た


「一体どうした?」

「どうやら医局長が知らない病だと…」

「何だと?」

フロックスは顔を顰める


「患者は?」

「それが…」

言いよどんだ騎士にナルシスが立ち上がる


「応えよ。患者は誰だ?」

「ほ、本日魔物討伐に出ていた騎士団です!それも精鋭の…」

その言葉に護衛騎士と側近がざわついた


「王、御前を離れても?」

「許可する」

即答されフロックスは執務室を飛び出した


「フロックスさん、感謝します」

呼びに来た騎士は称号なしの一般騎士だった


「この後君も薬を飲むといい」

「はい!」

その答えに一瞬だけニヤリと笑い、すぐに深刻そうな顔を作る


「ジルコット殿!」

フロックスは案内された部屋に飛び込んだ


「フロックス殿、この症状に私は心当たりがない。あなたはご存知か?」

ジルコットは体を横にずらして震える声で訪ねる


「…熱に…白い斑点?」

「倦怠感もあるようだ。最前線に出ていた精鋭騎士がほぼ全員体のどこかにその斑点が…同室の一般騎士も白い斑点は無いものの熱や倦怠感を訴え始めています」

確認するように辺りを見回すと、側に控えていた騎士たちが頷いた

見たところ称号なしばかりだった


「申し訳ないが私にも心当たりがない。魔物由来の何かか…下手すれば感染症の疑いも…」

今はまだ断言はしない

それでも称号持ちはもともと遠巻きにしていたにもかかわらずさらに距離を取る


「とにかくもう少し様子を見ましょう。誰か付き添って…症状に変化があればすぐに呼んでくれ」

未知の症状に手が出せないので、これから情報を集めるために医局に戻ると告げると、ジルコットとフロックスは騎士団を後にした


「上手くいってますな」

「ああ」

医局に着くなりそう言いながら自らも薬を飲む


「あぁ、カトリックの妹に兄からの伝言で湖でと伝えてくれ」

「承知した。お前たちはあと30分ほどしてから薬を。私たちが戻ってきてから感染したと思わせるためにな。彼女に伝言を頼めるか?」

側にいた2名の医師は頷いてから出て行った


「相変わらず夜勤は称号なしか?」

「聞くまでも無いでしょう?おかげで進めやすい」

「確かにその通りだな。ジルコット殿の準備は出来てるのか?」

「いつでもやめる準備が出来てるさ。上の気分次第で簡単に首を切られる立場だからな」

その言葉にフロックスは不機嫌そうな顔をする


「この国は王族至上主義だった。称号持ちがそれに異を唱えたところで権力至上主義に代わるだけだろう。今に始まったことではないさ」

フロックスはジルコットの諦めたような言葉に、この国の全てが詰まっているように思えた

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