62-4

「ギルドで薬を置いてもらってるだろ」

「ええ」

「受付にいる者によって贔屓にする薬師がいるようでな」

「ギルドは受付の人が選んで渡すから…」

ブラシュは少しすねたように言う


「そういやこの町には女性の薬師がいたか」

ロキの言葉に納得してしまった


ギルドの受付は男性が9割

人間のサガと言えばそれまでだけど生活がかかっている以上、そんな言葉では済ませられないものがあるのも事実だろう


「わかった。売り方や並べ方は2人に任せるから納得いくようにやってみて」

「…いいのか?」

「勿論。私は2人を信用してるもの」

オリゴンが気にしていることを察した上で先に告げる

そもそもマージンを高く設定しようとする2人が自分たちの利益だけを考える等かけらも思っていない

それ以前に一緒に暮らしてきた時間で2人の人柄を見るには充分だから


「感謝する」

オリゴンの言葉にただ頷きだけを返す


「親父、収穫時の薬草が沢山あるから明日から忙しくなるよ」

「あぁ、そうだな」

「じゃぁ今使ってた道具とこれは2人に渡しておくわね。こっちの材料も先に預けておくけど減ってきたら教えて」

「わかった」

「そういえば3段のラックがまだ残ってたよな?材料を分けておいとくのにあれを使いたい」

「作る場所と保管する場所も必要になりそうね」

「庭に空いてる小屋があったろ」

ロキが思い出したように言う


窯に気付かなかったことで一度庭も隅々まで確認してみたのだ

その際に4畳ほどの小屋を3つと木材加工用の工場のような場所を見つけていた

因みに小屋は後から設置したもののようで移動することが出来る作りになっている


「そう言えばあったね。あの小屋1つ動かそっか。ジョン達の道具をしまってる隣くらいでいいかな?」

「ああ。そこにラックをいくつかと作業台になりそうなもん運べばいけるだろ」

ロキと話していると2人がポカンとしていた


「俺ら自分の部屋で充分だけど…」

「空いてるから遠慮しなくていいよ。畑からの導線も考えれば庭にあった方が便利でしょう?それにこれから色々増やしてもらわないといけないしね」

薬草は2人と出会った迷宮にしかないわけじゃない

いろんな場所で入手できるのだから、この先もっと色んな種類が増やせるはずだもの


「オリビエには敵わないな」

「決まりだな。明日小屋を移動して家具を運ぼう。雑貨コーナーの為の改築も明日だったよな?」

「そうだよ」

「なら2人も立ち会って希望出した方がいいな」

「え?」

「ジョン達も立ち会うのよ。これから作りたい物が並べられるようにしとかないと勿体ないでしょう?」

「そういうもの?」

「ああ。例えばだな…お前がさっき籠に入れてって言ってた案でも、その籠を置くスペースがなかったら叶わないわけだ」

「…なるほど」

「そういう意見や希望を皆で出し合って、わがままな注文を上手く形にまとめてもらうための場よ」

「…その言い方は何か違う気もするけどな」

ロキが呆れたように言う

でも2人は納得したようで色々考えてみると意気込みながら部屋に引き上げていった


「楽しくなりそうだね」

「今でも十分楽しいけどな」

「それは否定しない」

そう返すと背後から覆いかぶさるように抱きしめられる

その温もりが心地いい

側にいて、当たり前のように味方でいてくれる

ただの気まぐれのような思い付きを驚くような形にしてくれる

そんな頼りになるロキがいて楽しくないはずがないのだから

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