54-2
***一方ソンシティヴュの王宮では…***
「歌姫はまだ見つからないのか!?」
オナグルが日に何度も騎士団に怒鳴り込んできていた
それもイモーテルが逃亡してから毎日のことである
「申し訳ありません!手は尽くしていますが未だ…」
「王都を出たわけではあるまいな?」
「検問で歌姫を通した記録はございません」
騎士はそう言うがイモーテルが王都を出てからもうすぐ2週間だ
そのことにまだ誰も気付いていない
「ならばなぜ見つからない?お前たちは本当に捜索をしているのか?そもそもお前たちは4人もここで何をしている?」
「ですからいつも申し上げている通り非常時の対応があります。そのためにもここを空にすることは出来ないんです」
オナグルから繰り返されるこの質問に騎士たちもうんざりしてきていた
最初こそ相手が王族だからと、いら立ちを隠して丁寧に説明していた
それも5日目で無駄だと悟ったのだ
説明したところでこの男は理解しない
怒鳴りに来るたびに同じ質問を繰り返すせいで、まともな対応をする意味さえ見いだせなかった
騎士達はいっそのこと首にして欲しいと思い始め、その時からオナグルを見下した物言いを敢えてするようになった
その想いとは裏腹に、未だに首にはされていないのだが…
「…とにかく一刻も早く保護しろ!いいな!」
最後はそう言い捨てて去っていく
分が悪いと思っているのか返事を聞く気すらない
その姿が完全に王宮内に消えたのを見てその場にいた騎士が大きく息を吐いた
「怒鳴りに来る暇があったら内政に力を入れろってんだ」
「全くだ。ここに怒鳴りに来る時間でどれだけの書類が捌けるか考えろってんだ」「勇者や聖女ならともかく歌姫なんぞ召喚しやがって…しかもその歌姫の為にどれだけの人員を割いてると思ってるんだ?」
「だいたい歌姫が逃げ出すこと自体おかしいだろう?契約のせいもあるけど丁重に扱ってたんじゃなかったのか?」
「どう考えても王族に問題があるとしか言えないだろうが…」
この場にいる4人の騎士は魔物と戦う最前線に立つ役割を担っているため皆同じ気持ちだった
瘴気が濃くなってきていることは明らかだ
このまま濃度を増せば過去の惨事が再び訪れることも明らかだった
瘴気の濃度が増せば魔物が増える
しかもその濃度の濃さは魔物の強さに比例する
その魔物が町を襲い、襲われた町を立て直すのに膨大な時間を要する
それゆえに騎士達は勿論、世界は瘴気を払う聖女の召喚を一番に望んでいた
聖女が無理でも魔物を倒せる勇者をと切望するのは自然な流れでもあった
瘴気を纏った魔物を倒せばその身は瘴気ごと消滅するからだ
4国はそれぞれに瘴気を纏った魔物の討伐を定期的に行い瘴気の濃度が一定以上にならないようにしているが、最近はそれが追い付かなくなっている
それもあってソンシティヴュが召喚の儀の準備を進めていたのだ
召喚の儀には膨大な魔力が必要で、その準備に時間がかかるため4国の持ち回りで行うことが決まっている
今回はたまたまソンシティヴュの番だったところ、オナグルが愚行を働いたおかげで騎士達への負担は計り知れないのが現状だ
どれだけ歌姫を乞うていたとしても、オナグルは次代の王になる事を望み、そのためにも聖女か勇者の召喚は当然のことだと考えているはずだった
惨事が訪れればそれが叶わない可能性が大きくなる
それなのに、まさか土壇場でオナグルが本当に歌姫をと望むなど、ナルシスさえ思ってもいなかったのだ
騎士達の中では既に、未来に対して一種の絶望が浮かんでいた
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