54-3
何とも言えない空気を打ち消すかのように一人が口を開いた
「…実はマロニエから手紙が来たんだ」
「マロニエから?」
それは少し前まで共に前線で戦っていた騎士の名前だった
「ああ。ダビア元団長と共にフジェにいるらしい」
「フジェって数日前にカクテュスの領になった町じゃないのか?」
「そうなるように誘導したのがクロキュスさんらしい」
「クロキュスさんまでフジェにいるのか?」
「…だとしたらこの国に未来はないんじゃ…」
この場にいるものはクロキュスとダビアの事をよく知っている
国のかじ取りに多大な影響力を持っていたクロキュス
守りに対し絶対的な力と判断力を持っていたダビア
その2人がフジェにいて、そのフジェを他国の領とした
「そこで俺らにフジェに来ないかと」
手紙をもらったという騎士が言った途端みんな顔を見合わせる
「フジェは直近まで同じ国だったし、家族も暮らしやすいだろうからどうかと言ってくれてる。ソンシティヴュの王族に反感を持つ特攻は受け入れる。ただしソンシティヴュが敵国になるということを理解した上で決めてくれと。俺は行くことにした。嫁にも話したが同意してくれた。嫁の実家も俺の実家も一緒に移ることになるだろう」
「実家まで受け入れてくれるのか?」
「ソンシティヴュを除く3か国で協議されたと書かれている。3か国はこの国を見限り職人たちの引き抜きを始めているらしい。町にも噂を流し移住を希望する者は称号持ち以外は受け入れると」
「仕事はどうなる?」
「俺達にはフジェを守る騎士として動いてほしいと。検問がフジェに移るためにカクテュスの騎士や魔術師団が多くフジェに入るが文化が違う。その架け橋として動くなら歓迎すると」
彼はそう言ってマロニエからの手紙を順に読むようにと渡した
3人はそれぞれ読み終えると思案する
「家族との話し合いも必要だろうから今ここで決断をとは言わない。でも俺としては4人そろって辞表を置いて出国できればいいと思っている」
「何か策でもあるのか?」
「家族たちは先に向かわせる。とりあえず今なら王都を出ることが出来れば問題はないはずだ。旅行とでも言ってみんなで出ればいい」
「荷物はどうする?」
「明日出来る限りのものを換金する。最低限のものだけを馬車に積んで必要なものは向こうで揃えるつもりだ。しばらくは不自由するかもしれないが皆納得してくれた」
「なるほどな。なら俺もその予定で話を切り出してみよう」
「あとは俺達だが…」
「俺達が王都を出るのは簡単だ。5日後が丁度魔物の間引きの日だからな」
「そうか。騎士団は辞表さえ書けばその場で退団が可能」
「そういうことだ。出発前に引き出しに辞表を入れていく。しばらく魔物を狩ったのちに誰かに引き出しを見ろと告げて離脱すればいい」
「馬車で2日、俺らが馬で早駆けすれば半日かからない。家族が王都を出る際の行先は念のため近隣の町にしておいた方がいいだろうな。そこからはとくに行先を詳しく聞かれることもないし、温泉地や知人の家に行くとでも言えば納得するだろう」
4人は簡単に示し合わせる
翌日には他の3人も家族と共にフジェに移ると決断を下した
マロニエにその旨を知らせる鷹を飛ばし、準備ができた者の家族から王都を離れていった
***町中では…***
「聞いたか?角の武器屋がブロンシュに行くってよ」
「あぁ、防具屋はマアグリだったか?一体どうなってるんだ?」
「親戚に聞いたがこの国が危ないから亡命する者は3国が受け入れてくれるって噂が流れてるらしい」
「そうなのか?確かに歌姫の歌も聞けなくなってもう2週間だ。本当に体調を崩してるだけなのか?」
少しずつ他国に行く職人達と共に尾ひれや背びれの付いた噂が飛び交っていた
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