53-2

「確かナルシスの側近だったか…?」

「そうだ。しかもナルシスは彼女を王宮に置いておけないと判断した」

「王宮に置けない?なぜ?」

「まさか追い出したのか?」

「追い出されると察した彼女から提案したらしい」

「提案?何を?」

ポンセもレンヌもやや興奮している


「彼女が望んだのはこの世界で3か月ほど生活できるだけの準備と、この世界や国の事が書かれた本。それに対して王は個人的に持っていたフジェの別荘を譲り1年分の生活費と6冊の本を渡した」

「異世界から勝手に呼び寄せてたったそれだけの保証だと?!」

「ありえん。ナルシスは何を考えておる?異世界に放り込まれてたった一人、1年で一体何ができるというのだ?」

ポンセとレンヌの怒りはカクテュスの王族たちと同様だった


「甥は彼女を守るために、これまで保留にしていた褒賞として彼女と同行することを提示した。その後互いに愛し合い婚姻したようだが、このことは先日甥と彼女に初めて対面した時に知ったばかりだ」

モーヴはそこまで言って2人を見た


「今回集まってもらったのは今説明したことを踏まえて次の3点について話し合うためだ。1つは歌姫、イモーテル・オンシュザの今後の事、2つ目は甥の嫁、オリビエ・トゥルソネルの今後の事、3つ目はソンシティヴュの事だ」

「オリビエは何か希望を?」

「オリビエは既にフジェの町でカフェを開き、そのカフェも軌道に乗っている。このまま甥と共にフジェの町で暮らしたいと言っている。お主らがそれに同意してくれるなら、不自由無きようカクテュスで後ろ盾になるつもりだ」

召喚された者は未知の者と言ってもいい

カクテュスの王族が持つ試練の迷宮が相当難易度が高いことは有名で、その迷宮を過去最速で攻略するほどの実力者であるオリビエを1国が囲い込むのはどうか

そう思われれば話は簡単にはまとまらない


「召喚された者の情報をこちらも知りたい。協力してもらうことは可能か?」

「その件についてはオリビエからの了承を得ている。ただできればオリビエの存在を広く知らせずに済ませてやって欲しい」

「それが彼女の希望か?」

「そうだ。今の生活が気に入っているらしくてな。シャドウの報告でもフジェの街に溶け込んでいるようだ」

「お前が突然フジェの町を領地に加えたのはそのせいか?」

「それはちょっと違うな」

「違う?」

「甥がオリビエと共に俺らに会う条件が、フジェの町をカクテュスの領土にすることだったからだ」

「彼はなぜそんな条件を?」

当然の疑問だろう

特産物があるわけでもないどこにでもある様な町だ

そんな町を取り込むことを、王族である親族と会うための条件にするなど普通は考えない


「ソンシティヴュの騎士や称号を持つ家の者たちは、今の世情や瘴気の増加から召喚するなら勇者か聖女を望んでいた。だが実際に召喚されたのは歌姫でオナグルが我がものとして取り込んだ。どうやらあの正妃の騒動が王家を潰すための一端の可能性が高いという」

「王家を潰す?」

「国民に対して王家の失態を知らしめるためにな。仮に召喚されたのが聖女や勇者であったなら、おそらく正妃の問題はゴールド3家が止めていたはずだと言う者もいる」

「その根拠は?」

「3家には正妃と同時期に学園にいた者がいるらしい」

それはある意味強力な根拠だ

あの出来損ないを正妃に等正常な考えを持っていればありえない

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