49-4

***

少し時間が戻ってロキたちは…


「…どういうつもりだ?」

ロキは戻ってきたカモミに詰め寄る


「…クロキュス、お前がシティスの息子だということが知れ渡っているんだよ」

「なに?」

「だからここに連れ戻そうとしていたのよ。お前が選んだオリビエの存在が知れ渡るのも時間の問題だろうから」

カモミは淡々と告げる


「わかるかクロキュス、シャドウがどれだけ守ろうとしても本人に危機感と覚悟がなければ守れない。それに…狙われるのは決まって弱いものからだ」

その言葉にロキはこぶしを握り締めた


「今いる成人した王族は皆、迷宮をクリアしたかSランクの者だけ。でも…あの子はAランクなのでしょう?」

それが何を意味するかは分かるわよねとヴィオレットは言葉を濁す

「無理だと判断した時はリタイアするよう指輪を持たせたわ。それにあの迷宮は得られる経験値が2倍になる」

「俺たちはそれを利用して力をつけることもあるんだ」

それが気休めでしかないとわかりながらも皆言葉をかけ続ける


もうこの世を去ってしまった末の妹の愛息子

これまで会いたいと願いながらようやく会えたものの時期が悪かった

それでもこの方法が愛息子の愛する妻を守る一番の方法だと、自らに言い聞かせているようにも感じる


カクテュスは一見平和だが王族に近い家柄の者の中には反乱分子が存在する

彼らにとっては継承権を放棄しようと国を捨てようと関係ない

王族の血を引く者とその家族は全て敵とみなされるのだ

戦闘にも魔導士団としても活躍する国だからこそどのような攻撃をされるのかわからない

少しでも生存率を上げるには強くなり上手く立ち回るほかないのである

永遠とも思える苦しい時間をロキはただ耐えていた


「!」

突然、大きな魔力の動きを感じた瞬間オリビエがそこに立っていた


「オリビエ!」

少しふらついたオリビエをロキは抱き上げる


「まさかもう終わったの?」

「ありえないだろ。30分しか経ってない」

「でもここに戻されるのはクリアした時だけだろ?!」

皆が口々に言う


「大丈夫かオリビエ…」

ロキは酷い傷口に最上級のポーションをかけていく


「大丈夫。ちょっと油断した時に内臓やられて血が足りないだけ」

オリビエは苦笑しながら言った


「油断って…」

「うん。まさか魔法が封じられるフロアがあるとは思ってなくて、武器を出してなかったから…焦った」

「…まさかあのフロアを武器なしで?100匹以上の魔物がいたはず…」

入ったことがある者は背筋が寒くなるのを感じた


「オリビエあなた武器なしでどうやって…」

「…それも含めてロキに説明したくて…皆さんにも一緒に聞いてもらいたいんですけど、少し休んでからでも…?」

今は流石にこれ以上話せないと力なく笑うオリビエに皆が頷いていた


「え、えぇ、そうね。医師に増血剤を用意させて」

控えた者に指示を出す

「あなたたちの部屋に案内させるわ。夕食は19時からの予定だけど無理なら部屋に運ばせるわ」

「ああ」

オリビエはロキに抱き上げられたまま部屋に連れていかれた


***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る