49-2

「これ以上はまずいかな…」

漠然とそう思った

でもリタイアするという選択肢を選ぶことができなかった


きっと私が踏破することを誰よりも強く望んでいるのはロキではなくカモミだ

会いたいと願った孫に怒りを向けられながらも彼女が願ったのはその孫の幸せだ

ロキのわだかまりを解くには私がクリアする以外に方法が無いように思えた


『補正解除』

今できる最善の策

ギルドに登録する時にかけたステータスの補正を解除した

こんなことなら最初から解除しとけばよかったわ…


魔力が封じられていても、封じていた元の筋力に底上げすれば出血は多少落ち付くはず

屁理屈のようだけど前に聞いたことがあるし、目の前で見せられたこともある

正確なメカニズムは知らないけど望んだとおり出血は治まった

少しふらつくものの痛みも多少マシな気がする

でも部屋の隅に見える階段までたどり着ければなんとかなるのは分かっても、簡単に進ませてはくれそうにない

こうしている間にも魔物は当然のように襲ってくるのだから…


「あれは使えるのかな?」

ふと頭をよぎったのは魔法陣

魔力とは違い体内を巡るマナという力を使う技

スキルとして認識されてないし、普段使うことがないから自分でも忘れかけていたわ


ものは試しと襲い掛かってくる魔物を倒しながら頭の中で陣を描く

意識が分散されたことで食らう攻撃も増えるけど構ってはいられない


描いたのは竜巻

そして力を籠める

轟音と魔物の悲鳴が響く

次の瞬間すべての魔物が吹き飛んでいた


「何か簡単すぎる…っていわゆる補正のせいか…普段は全く役に立たないけど今回だけは助かったかも」

魔法陣を描く間に魔法なら何発発動できることか…

ゆえに普段はお蔵入りの力でしかない


まぁ、とりあえず敵は一掃出来たからいいんだけどね

でもその為に支払った対価は大きい

何かの稽古のように順番に向かって来てくれるわけじゃない

魔物は隙あらばと襲ってくるのだから当然だけど…


とりあえず迷宮内で安全な場所でもある階段に移動し応急処置をしていく

「ちょっと血を流しすぎたかも…」

解放されたインベントリから取り出したポーションで傷は塞いだものの、既に流れた血が戻ってくるわけではない

目の前が少しかすんで見える

流れた血の大半は腹部を抉られたときのもので、マナに気付く前にやられたものだ


「こういう時回復魔法とかあったらよかったんだけど…」

聖女と呼ばれるスキルを持つものや光属性の魔法を持つ者が得る癒しの力

話を聞く度憧れたのはきっと私だけじゃない

召喚された時もひょっとしてと期待をしたものの、補正値がついただけで覇王と同種の統率以外に新しい力は追加されなかったと知りがっかりした


生活魔法の光も進化したとはいえ、灯りとしての役目しか果たしてはくれなかったものね

転生者や転移者の補正は行った先の世界によって違うらしい

ミルトゥに来た人は必ず世界言語と順応力、精神異常耐性がMAX値でついていた

特殊な世界故の配慮だろうと冒険者仲間と話していたのを思い出す


「あと1フロア、ロキも心配してるだろうし、とっととクリアして見せましょう」

意を決して立ち上がる

そして見えてきたフロアにいたのは…

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