閑話7-2
遠い昔ソンシティヴュは魔道力も戦力もなかった当時の第2皇子が、自らの理想を形にしたいと王に懇願し、カクテュスから独立する形で出来た国である
その際他の皇子が反対し、戦乱になった
その場所こそフジェの町付近だったのだ
第2皇子の立てこもったフジェの町をカクテュスから隔離するために魔術師は地形を変えた
フジェを囲う不自然な切り立った山はそのなれの果てである
権力だけを頼りに成りあがった第2皇子は王となると同時に王族至上主義を掲げた
それまで自分を虐げ、蔑んで来た者を従わせるための体制を整えたのだ
称号はその主軸となる制度だった
当時は今ほど裕福ではなかったため称号を得ればそれだけで手元の資産は微々たるものになる
称号は権力を持ちたい者の資金を奪うための策でもあったのだ
もっとも時代と共にその当初の姿とはかけ離れたものになっていたが…
そんな自国の歴史をナルシスは何故か思い出していた
いつからか称号は王のあずかり知らぬ場所で売買されるようになっていた
その結果がゴールドから謀られるという事態を作り出したのだとナルシスは思っていた
実際はただ王族が間抜けだっただけなのだが…
「だからこそ選択肢を用意してやったではないか。1つは当然の権利を主張したもの、1つは今の状況からの妥協案、他の2国も充分理解してくれるものだと思うが?」
「…フジェを差し上げます」
「差し上げる?」
王は眉間にしわを寄せる
「あ、いや!フジェを…どうか…だから…」
ガタガタと震えるナルシスに王としての器があるのかどうか…
「…まぁよい。今この時よりフジェは我が国の領土。王族であろうと勝手な立ち入りは認めぬ。もっとも忘れ去られた地に赴くとは思えんがな」
あざ笑うように言われナルシスはただひれ伏すのみ
それでもこの最悪の事態からようやく解放されることへの安堵の方が強かった
「ときに王よ」
区切られた言葉にナルシスは顔をあげた
「歌姫はいかがした?召喚して半年近く毎朝聞こえていた歌が聞けなくなったらしいが?」
ひゅっ…と息を飲む音が聞こえた
「う、歌姫は体調を崩しております故…」
「左様であったか…1日でも早く体調が戻られるよう祈らせてもらおう。異世界より強制的に召喚されたある意味被害者でもあるのだからな。同じ世界の者として何か出来ることがあれば力になろう」
「あ…ありがたきお言葉…」
ナルシスは冷や汗を流す
血の契約を行った上離宮に隔離したことは勿論、それがイヤで逃げ出したなどと知られては大変なことになる
「そういえば…歌姫の召喚の際もう一人召喚されたという噂を聞いたが真相は?」
「そ、そのようなこと…あるはずがないではありませんか…ただの噂で…」
震えの増したナルシスを見下ろす
「…そうだな。仮にそのようなことがあれば、この世界を分かつ国である他の3国に報告があるはず。ただでさえそなたの愚息による数々の愚行で憤りが高まっている中、そのような大事なことを報告しないという策はとらんか…ならばもう用はない。今後フジェは我が国の領土だということを忘れるな」
王はそう言ってその場から姿を消した
「まずい…彼女の存在を伏せたのはただの被害者だからだ…しかも彼女はフジェに…まさか…?」
王の想像が全くの見当違いではないと知るのはまだ先のことになる
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