33.求めていたモノ

33-1

「失礼ですけどあなたは…?」

「そこの長屋に住んでるナハマだ。商店街でリラが飛びついてきて、猫さんのところに行くというから一緒に来たんだが…」

ナハマがリラの方を見るとその足元に黒猫がいた


「長屋はこの側なんですか?」

「あぁ、その裏にある。リラは前からこの子が気に入っておってな」

確かに猫はリラになついているように見える


「この猫はナハマの?」

「いや。ただときどき餌をやってるだけだ。できればちゃんと飼ってやりたいが…」

「長屋に住むくらいだ。そこまでの余裕はないか」

「そういうことだ」

残念そうに言うナハマに思わず首を傾げた

猫を飼うのにそれほどコストがかかっただろうか?

そう思いながらロキを見る


「この国でペットを飼育する場合、登録することが義務付けられてる。その時に一定の金が必要なんだ。ネコなら最初に5万シアの登録料だったか」

「その通りだ。最初にそれを工面できても、各種の予防接種も1年以内に受けさせて、その証明書を提出する義務がある。わしには流石に無理だな」

心底残念そうにナハマは言う


「この子、ナハマにも懐いてるみたいですけど?」

「匂いのせいかよく部屋に入り込んでくる。俺は荒節を作るのが仕事だからな」

荒節…それは猫は大喜びだろう

っていうか荒節をって言った?


「ナハマ、荒節ってこの辺で売ってた?」

「いや。家畜の餌だから商店街には並ばんだろう」

「え?」

今家畜の餌って言った?なんてもったいない…


「当然だろ?こんな固いもん人間は食わん。3回も4回も燻してるのは単に日持ちさせるためだからな」

ナハマはそう言いながら荒節を1本渡してくれる

かなり状態がいいものだった


「…ナハマはどの工程からどの工程までやってるの?」

「そりゃ魚を仕入れてその状態になるまでだが?嫁さんが生きてた頃は売り歩いてくれてたが今ではそれも出来んしな」

「その卸先って多いの?」

「いや。最近はトウモロコシの方が好まれる。だが俺はこの仕事しか出来ないんでな」

「…ということは私が独占してもいい?」

「「は?」」

信じられないという様に個上を上げたのはナハマだけではなかった


「オリビエ、家に家畜はいないぞ?」

ロキが呆れたように言う


「そんなこと分かってるわよ。ねえナハマ、どうかしら?」

「俺としては助かるが…」

「本当?じゃぁできればあなたをウチの職人として雇いたいわ。住む場所と食事も用意させてもらう。報酬も希望を聞くわ。ただし燻す回数は増やしてもらうけど」

「何だって?」

ナハマは驚きのあまり目を見開いた

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