30-2

「マロニエは正妃と同じ年、学園でも同じクラスだっただけに、きっとこうなることを予想してたんだろう」

「ダビアに続いて即答したって言ってましたからね」

騎士団の中にも正妃と同世代は何人もいる

その中にも正妃がその器でないと知っている者もいたが、あえて口にはしなかった

その話の出所が自分だと突き止められれば、自分だけでなく家族がどうなるかわからないからだ


「相手はゴールドの称号を持つだけに知ってても明かすことはできない、か…」

「でしょうね。マロニエにしたら選択肢は無かったも同然だろう」

「あいつ、騎士団に入ること反対されて勘当されたんでしたっけ?」

「勘当と言っても当主が反対してただけで、他の家族とは今でも良好な関係を保ってる。それが余計に選択肢を奪ったんだろうな」

「新兵降格か認めることの出来ない者に仕えるか…」

「その結果、ここを去ったと?」

「あの年で精鋭だぞ?」

「それが新兵扱い…確かにありえないですね」

その言葉はため息交じりに吐き出された


「ダビアだってそうだ。あいつは元々王族よりも民を守りたいから騎士団に入った。団長まで上り詰めたのは、自分が最前線に立つことが出来るからだ」

「そんな男がクソみたいな王族の守りなんて受けるはずがない」

「…ほんと、何考えてるんですかね。上は」

精鋭の中でもトップクラスの2人を辞職に追い込んだ王族

そのうちの一人はこのご時世で歌姫を召喚した

さらには他国から責められても仕方がない扱いをしているのだ


この場にいる騎士たちがそれでも騎士団にいるのは、民を守るという使命を捨てられないからというだけの事だった

その民には当然、自分の家族も含まれる

騎士団にいれば高ランクの冒険者しか手に出来ないような武具を使うことも出来る

共に訓練をしている仲間と協力することも出来る

何より、万が一自分の身に何かあったとしても、多くはないとは言え遺族の生活が保障されるのだ

ハイリスクハイリターンの冒険者になるか

ローリスクローリターンで、家族の保証というオプション付きの騎士団を取るか

その2択から選択しただけに過ぎないのだ


団長はそれを理解しているからこそ頭を抱える

ここに王家に忠誠を誓う者は1割もいないだろう

王至上主義の国の王宮の騎士団でありながら、である


今のタイミングで王族の専属になるか新兵降格かを問われれば、7割以上の騎士が辞めることを選ぶだろう

それが騎士たちの本音だということを誰よりも理解していた

なぜならその騎士たちの中には団長自身も含まれているのだから


団長は懐から手紙を取り出した


“もう無理だと思ったらフジェに来い。騎士団の精鋭ならここでもやっていける”


たったそれだけが書かれた手紙はダビアから2週間ほど前に送られてきたものだ

妹が王付きのメイドになっている為簡単には動けない

でも最悪の事態に頼る場所があるのは有り難いものだと口元を緩ませた

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