30.本音(side:王宮 騎士団)

30-1

ソンシティヴュのあるこのフーシアという世界では、ここ数年魔物の被害が激増している

その中でも冒険者のレベルが芳しくないこのソンシティヴュでは、他国と比べて騎士団にかかる負担が大きいと言われていた

「あー俺もうやめていい?」

20歳過ぎの騎士がぼやく


この日はいつもより狂暴な魔物が多かった

何とか殲滅するも騎士団側には負傷者が多数出ていた

幸い死人は出なかったものの魔物から受けた傷は普通の怪我より治りが遅い

何より、狂暴な魔物には魔力のあるものも多く、その影響は様々である

酷い場合は1か月以上昏睡状態になることもあると言われているのだ

そのことで特に若い騎士たちは不安や不満を押さえ切れなくなってきていた


「ただでさえ休みが取れなかったのに、ダビアとマロニエの抜けた穴なんて簡単に埋められねぇって…」

近くにいた騎士からも愚痴が零される


「泣きごと言ってる暇があったら体のケアをしておけ」

「やってますよ…でも特攻2人がぬけて、王族の専属に3人取られたのに補充無しとかありえないですよ?」

おそらく大半の騎士が内に秘めているだろうことだった

元々精鋭の騎士は15人しかいなかった

その中から正妃ソラセナの護衛に3人が引き抜かれている

通常の騎士の倍以上の動きをする精鋭だけに騎士団としての痛手は大きい

王族としては称号持ち以上が守られるならそれで構わないというのが建前だ


「まぁ、お前の言いたいことも理解できるがな」

「そうでしょう、団長?」

だからこそ若い騎士は、ため息交じりに零された団長の言葉に食いついた


「だとしても、だ。俺たちに出来るのは、力の限り守りに徹することだけだ」

「それは分かってますけど…」

でもやり切れない思いがあるのだとその目が語っていた


「どうせなら勇者か聖女を召喚してくれりゃ良かったのに」

「だよな。何度か歌を聞いたけど歌姫なんて何の役にも立たない」

「その歌姫もオナグル様が囲ってるんだろ?他国に知れたら大問題だよな?」

「問題どころの騒ぎじゃないだろ」

ボソッと零された言葉に静まり返る

歌姫の事に関しては口外しないことを魔道具で誓約させられている

話せるのはせいぜいこの場にいる騎士同士くらいだろう


「歌姫もだけど、正妃もあれだしなぁ…」

「入城してから1か月ちょっとか?」

「もっと長い気がするな。城から脱走しようとしたり離宮に突入しようとしたり…」

「専属になった3人は八つ当たりも酷いって言ってたな」

たまに顔を合わせる出世したはずの3人が、成人したはずなのに幼子の相手をしているようだとうんざりした顔で話すのを何度も聞いた

直接関わらない騎士団ですらうんざりするのだから専属護衛の負担は相当なものだろう


「ダビアとマロニエが断わったとき、なんて勿体ないことを、って思ったけど…あの時の自分を殴りたい」

そう零したのはダビア達と共に最初に指名されたハンソンだった

既に引き受けてしまった以上、専属を外れることができたとしても、王宮内での飼い殺しになることは分かり切っている

専属である以上、本来は知りえない多くの情報を入手する

そんな情報を持った者を外に放つわけがないのだから

そういう意味ではクロキュスは異例の扱いだったのだ

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