29-3

「そなたはそんなこともわからないのか?」

「え…?」

呆れたように見返されその表情が青ざめていくのが分かる

ナルシスが外に目を向けると若い騎士が通り過ぎようとしていた


「彼を中に」

「はい」

頷いた側近が騎士を中に呼び寄せた


「突然すまないな。少し質問に答えてくれ」

「何でしょうか?」

「フーシアの4国の特徴を知っているか?」

「もちろんです」

彼は即答した


「ブロンシュは?」

「鉱山を豊富に持ち産業に優れた国です」

「カクテュス」

「戦闘・魔術に秀で、高度な医療を持った国です」

「マアグリ」

「農業・畜産が盛んで豊穣の国と呼ばれています」

スラスラと答える騎士にソラセナが驚愕の表情を浮かべた


「ちなみにそれはいつ頃から知っている?」

「最初は洗礼式で教わるので5歳の頃かと」

「そうだな。そなたの周辺でそれを知らない者は?」

「称号を持つ知人の中にはおりません。その辺りの一般常識は学園の初期試験で出題されますが、という話は有名です」

「その通りだ。協力感謝する」

ナルシスが頷き、なぜこんな質問をされたのかと戸惑ったまま騎士は解放された


「さて、今のをどうとる?」

「…」

「5歳の子供が知っていることを問われてか?それに学園の初期試験でということはそなたも満点を取っていたはずだがな」

「!」

次は顔を真っ赤にしたかと思うと次の瞬間真っ青になって下を向いた

ソラセナは随分色の変わりやすい顔を持っているようだ


「婚姻を済ませた以上取り消すことも困難だ。だが、このままのさばってもらうわけにはいかんな」

「え…?」

「これはこの1か月でそなたの使った金の明細だ」

そう言いながら書類の束をテーブルに置く


「それは全てそなたの実家に請求する。今後教師の合格が出るまで王族の金を使うことは許可しない」

「そんな…!お父様は婚姻すれば好きなだけ使えると…!」

「何の役にも立たん者に出す金はない」

「役に…立たな…い…?」

「子どもの知っていることも知らん、オナグルをつなぎ留めることも出来ん、使用人1人の心を掴む魅力もない、そのどこに価値がある?」

ソラセナは何かを言い返そうとして言葉を飲み込んだ


「そなたはもう成人している以上自分の行動には責任を持つべきだ。周りのせいにする前に、今与えられている環境でできる事に本気で取り組むべきだとは思わないか?」

「でも…」

「言い訳をしようと、他人を責めようと状況が良くなることは無い」

「…」

「とにかく王族として認められたければ死に物狂いで頑張ることだ」

最後にそう締めくくってナルシスは部屋を出た

これで少しは回ってくる書類が減ればいいのだが…とこぼしながら


側近はソラセナに言った言葉を自分自身で心から理解して欲しいと思っていた

どれだけ言い訳しようとナルシスがフジェの領主に謀られていた事実は変わらないのだから

ナルシスが問題の大きさを計り間違えた事に気付く時が目前に迫っていることを、この時誰も気付いてはいなかった

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