29-2
「クロキュスの父親も似たような性格をしていた。たとえ王家が相手でも不正は許さないと、その姿勢を崩さないような男だった」
「はい。本当に素晴らしいお方でした。まだ存命であればこの国は今以上に素晴らしい国となっていたでしょう」
側近の言葉にナルシスは眉間にしわを寄せる
ただの側近がそう言えるほどクロキュスの父親の影響は大きかったのだ
その言葉を否定する者は誰一人いないだろう
それが分かっているからこそナルシスは言い返すという選択肢を選べない
「…かまわん。捨て置け」
「よろしいので?」
「あの町にクロキュスがいるのなら最悪の事態にはならんだろう」
「それは…その通りでしょうが…」
側近は否定する言葉を持たない
当然だ
目の前の自身の仕える王がクロキュスに太刀打ちできたことはないのだから
だからと言って、側近を降りた者を頼りにするのはいかがなものか
そう問いたくてもナルシスの気性を知っているがゆえに思いとどまった
ナルシスは命を救ってくれた褒賞にとクロキュスを側近にした
それからは王宮内の改革もクロキュス主導で行い、膨大なコストを省くことが出来た
でもそれは同時にナルシス自身の首も絞めていたのだ
ナルシスにとって、幅広く深い知識を持つクロキュスを手放すのは痛かったが、これ以上自分の首を絞めるのを避けたいと思っていた
クロキュスがオリビエに同行すると言いだしたのは、何とか体よく遠ざける方法はないかと考えていた矢先の申し出だったのだ
「王?」
側近に呼ばれてナルシスが顔を上げると心配そうに覗き込んでいた
「と、とにかくフジェの町のことは気にしなくていい。クロキュスも手に負えないなら、こんな時間のかかる報告書ではなく鷹を飛ばすはずだからな」
「…承知しました」
まだ納得は行かない表情をしているものの、側近も馬鹿ではない
これ以上食い下がったところで今の決定が覆らないことは分かり切ったことだった
「それよりも…ソラセナを呼んでくれ。応接室でいい」
「承知しました」
ナルシスの言葉に側近が1人先に部屋を出た
少ししてナルシスも立ち上がると、執務室の1つ下のフロアにある応接室に向かった
******
部屋に入るとソラセナは既に来ていて、ナルシスの姿を見て立ち上がった
「座ってくれ」
一度立ち上がったソラセナを座る様に促す
「そなたがここに来てから1カ月ほどか」
「…はい」
「未だどの教師からも合格が出ていないと聞くが?」
「それは…教師が陰険だからですわ」
「ほぅ」
ナルシスが興味深げに返すとソラセナはここぞとばかりに訴える
「私はきちんとしております。でも、あの者達は嫌がらせで合格を出さないのです」
「なるほど。では今日の一般常識の課題の内容は何だ?」
「フーシアにある4国の特徴です。そんなのわかるわけないじゃないですか?」
ソラセナは腹立たしそうに言うが、ナルシスに言わせればわからない方がおかしい
ナルシスは一瞬唖然とした顔をし、側に控えていた側近は下を向き笑いをかみ殺す
ソラセナの侍女や専属護衛は慣れているのか、ただ可哀想な者を見るかのような目でソラセナを見ていた
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