閑話5-3

「捨てちゃうのはもったいないから試食に使っちゃえば?」

「試食?」

何だそれ?

初めて聞く言葉に首を傾げる


「一口サイズに切って試しに食べてもらうの」

「そんなことしたら儲けにならん」

店は奉仕活動の一環じゃないことくらいカフェをやってりゃわかるだろうに…


「どっちにしてもこれ、売り物には無理だよ?」

「ぐ…」

怖れていた言葉を突き付けられて一瞬息が詰まる


「未知のもの買うのって勇気いるじゃない?だから売り時逃しちゃったのを試食用にして味を知ってもらえばいいと思うのよね」

「…なるほど」

言ってる意味は理解できる


「試しに食べてみて美味しかったら売れるしね。丁度いいからこれ、切ってみてもいい?」

「あ、あぁ」

俺はオリビエにまな板と包丁を渡した

オリビエは通りから見えるように果物を切っていく

なるほど、そうやって皮をむいた後に切っていくのか

思わず感心しながらその手元を見ていた


「あれ?オリビエこんなとこで何やってんの?」

「ちょっとね。丁度いいからこれ食べてみない?」

「何これ?初めて見るものなんだけど」

通りがかった女性は立ち止まり興味深げにオリビエの手元を見ていた


「とっても美味しい果物よ」

そういいながら一切れ楊枝にさして彼女に渡す


「ん…おいしい!何これ、すっごい瑞々しいんだけど!」

はしゃぐ彼女の声に通りを歩いていた主婦たちが集まってくる


「なんだい、一体何が?」

「皆さんも食べてみてください。新しく発見された果物ですよ」

オリビエは次々と試食と言いながら渡していく


「これはいいわねぇ」

「うちのおばあちゃんでも食べれそうだわ。これ1つ頂ける?」

「おじさんキウイ取って」

「あ、あぁ」

言われるままキウイを渡す


「奥さんコレなんだけど、皮をむいて切るだけで食べれるから」

「まぁこんな見た目なの?」

「変わった見た目だけど美味しかったでしょう?」

にっこり笑って言われた女性はそれだけで満足したようだった


「あ、ちなみに皮はこんな感じで、外から触ってちょっと柔らかくなった頃が食べ頃だから。ちょうどこんな感じ」

剥いた後の皮を見せると興味深げに見たり触ったりしていた

なるほど、そうすることでより身近に感じられるということか?

オリビエがそんなことをしている少しの間に10個ほどの果物が売れていた


「上手い事やるもんだ」

「あれはあいつの天性の才能だな。その時々でやり方を上手いこと変えてる」

呟いた俺に返ってきたのはロキの感心したような言葉だった


「主婦連中の口コミは広がるのが早い。そのダメになりかけてるのを試食で提供し終わるころにはかなり広まってると思うぞ」

「だといいんだがな」

「大丈夫だ。カフェでも評判がいいからな」

得意げに言うロキを見ていると俺の心配も少しずつ薄らいでいくのが分かる

確かにこの短時間で一気に売れたことを考えれば全くの夢物語とも言えない


結果、1週間もしない内に新しい果物はフジェの町の人気の果物となった

冒険者にとっては迷宮内の水分補給にも重宝するらしい

現地調達なら荷物が増えるわけじゃないから丁度いいのだろう

色んな意味で好まれる果物になったのは言うまでもない

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