25-2

先に食材の買い物を済ませてから本屋に向かうと、丁度店主が店の前を掃除しているところだった


「こんにちは」

「おや、今日は3人かい?」

店主は私達を見てそう尋ねて来た

何度か来てるものの、いつもならロキと2人なのを覚えていたらしい


「ええ。今日はこの子の本を探しに来たの。ウー、好きなの選んでおいで」

「本当に何でもいいの?」

「いいわよ」

「やった」

嬉々として本棚の間を抜けていくウーに苦笑する

ロキもめぼしいものを探しに店内をうろつき始めた


「そうだ、文字と数の練習帳なんて置いてたりする?」

「あぁ、あるよ。子供向けでいいのかい?」

「文字は7歳、数は5歳かな」

「それくらいの年なら…」

ブツブツ言いながら何冊かの冊子を並べてくれる


「こっちは10まで、これは100までで…こっちが1桁の計算に2桁の計算あたりかな」

「そうね。じゃぁこの100までのを1冊ね」

「はいよ。文字の方はこの辺りになるよ。絵本が読めるならこっち、読めないならこっちがおすすめだ」

「じゃぁこっちね。絵本は読めるみたいだから」

とりあえずコルザとロベリの分は決まった


「あとはあの子のが決るまで待ってね。その間私も物色してるわ」

「わかったよ。ゆっくり選んどくれ」

店主はそう言って笑う

店内に視線を巡らせるとロキの手には既に3冊の本があった


「せっかくだから料理の本でも見ようかしら」

それらしいものが集められている棚で物色を始めると果物の本が目についた


「果物か…ちょうどいいかも」

手に取ってみると図鑑と辞書が合わさったような本だった

写真と詳細、育て方、熟した時期の見極め方、食べ方などかなりの情報が載っている

これ、私の鑑定とどっちが詳しいのかしら?

一つ言えるのは鑑定は現物が存在しないと使えないけど、図鑑は現物を必要としないという違いがあるということ


「これはいいかも」

元の世界には無かった果物もあるから役立ちそうだ

気になった物を探すのも楽しめそうだしと、その本は棚に戻さず手に持ったままになる

他にもドリンクの本があったのでそれも買うことにした


「オリビエ決めたよ!」

ウーは1冊の本を抱えて寄ってきた


「冒険もの?」

「うん。こういうのワクワクする」

自分が実際に冒険するのは難しいけど本の中でなら楽しめるという


「じゃぁお会計してくるわ」

ウーから本を受け取り、自分が選んだ2冊、練習帳2冊と一緒に購入する

払い終えた頃合いでロキも自分の分を購入していた


「またどうぞ」

そう言う店主に見送られて店を出た

「はいウー、お店を手伝ってくれてありがとう」

「へへ…」

本を渡すと照れ臭そうに笑いながら大事そうに抱きしめる

これだけ喜んでくれたら私の方まで嬉しくなってくるから不思だ


本は高級品ではないものの娯楽品の扱いである以上、子供のお小遣いでとなると少し厳しい価格帯になっている

必需品は大半の人が容易に手に取れる価格帯なので、商店街でもそこら中で見かけることが出来る

でも、いわゆる娯楽品、嗜好品と呼ばれる商品は特別なときに買うものという位置づけになっているため、各町に1店舗あるかないかというのが現状だ

だからウーにとって”自分の本”と言うのはかなり貴重なものなのかもしれない


「あれだけ喜ぶと与えがいがあるな」

ロキがボソッと呟いた


「冒険ものが好きみたいよ?」

「…覚えとくよ」

ロキは皆から少し距離を置いているように見えても、実際には驚くほど気にかけている

特に子供達のことは放っておけないらしい

きっとそのうち食堂の本棚に冒険ものの本が増えると思う


「さて、じゃぁ帰りましょうか」

「うん。僕先行くね」

ウーは早く読みたいからと走って行った

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